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 あっという間に、季節は過ぎていく。  この町の冬は厳しい。老体に、雪の冷たさは堪える。だけど、変わらずに僕に会いに来てくれる花弥のお陰で、へこたれないで済んだ。多分、次の春も迎えられると思う。  花弥の話の内容は、恋バナばかりになっていた。最初はヤキモチを焼いていた僕だけど、朗らかな調子で話し続ける花弥を見ているうちに、その恋が叶えばいいなと願えるようになっていた。  ある雪深い朝。花弥は、僕の傍らに小さな雪だるまを作った。僕から落ちた枝が雪だるまの顔を担う。その口元は笑みを浮かべていた。 「笑った顔がみたいなって、言われたの」  白い息を漏らしながら花弥は言った。 「わたし、無表情だもんね。最後に笑ったのって、いつだろう」  僕は思い出す。桜吹雪の中で微笑む、あのあどけない笑顔を。 「お喋りも、笑うこともできないなんて。そのうち、嫌われちゃうかな」 『いつか、自然と笑えるようになるさ』 「せめて、何も伝えられないまま終わりたくはないな……」  儚げな声が、冷たい大気に希釈されていく。 『きっと彼も、君のことを想っているはずだよ』  それは僕の願いでもあった。  僕が君を想うように。これから先、たくさんの人が花弥を愛してくれますように。
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