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再び春が来た。あちこちにひだまりが生まれている。あぜ道に咲くタンポポが、春風をまとい揺れている。遠くを見渡せば、町中の桜が咲き誇っているた。僕、一本だけを除いて。
その日の朝、花弥はひどく悲しそうな顔をしていた。
「引っ越すことになったの」
花弥は言った。
「お父さんの仕事の都合で。とても遠い町なんだ」
その告白を聞いて、僕は鳴った。ぎしりと、身体の何処かが悲鳴をあげたのだ。
「もうあなたに会えなくなるの……。彼にも、会えなくなる」
うつむく花弥を見ても、僕は何も言えなかった。自分が何かを言ったところでなんの意味もないことを、今になって痛感していた。
「言わなくちゃ。彼に、さよならを。出来ることなら、好きでしたって……」
ねえ、と花弥は言った。
「わたしがちゃんと言えるように、祈っててくれないかな?」
当たり前だ。僕は祈る。花弥の幸せを。今までだって、ずっとそうしてきたんだよ。
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