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 夕方が過ぎて、最終のバスから花弥が降り立った。  失敗したのだと、ひと目見てわかった。泣きはらした後のようなその表情に、底知れない悲しみの影が見受けられた。 「結局、自分の声で伝えられなかった。胸が苦しくって、息もできなくて……だから、いつもみたいに文字で伝えたの」  僕は黙ったまま、花弥の話を受け止め続ける。 「引っ越すんだ、って。そしたらね、彼が言ってくれたんだ。『君のことが好きだ』って」  うれしかった、と花弥は言った。 「だけどね、わたし泣きながら逃げちゃったの。わたしも好きだよって、言いたかったのに。やっぱり声にならなくて……言葉ひとつも、生まれなくって……さよならさえも言えなかった」  花弥がしゃがみこみ、膝を抱えた。  「わたし、なんでこうなんだろう……ねえ、教えてよ。何か言ってほしいよ……」    花弥が泣いていた。    慰めたいと思った。だけど、僕の言葉は届かない。朽ちかけた枝を伸ばそうとしても、花弥を抱きしめることはできない。  春の夜に佇むだけの、まるで虚空のような存在。  僕はなんて無力なんだろう。
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