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「はじめまして、鈴森花弥(かや)です」  僕に向かって、花弥は言った。 「えっと、趣味は読書です。どちらかというと静かなタイプかもしれないけれど、よかったら友達になってください。どうかよろしくお願いします」  花弥はバスを待っていた。今日が、高校生になって最初の登校日らしい。  バス停には僕と花弥しかいない。陽射しが暖かだ。遠くに見える山並みには、春を告げる花々の彩りが混じっている。 「こんな感じでいいのかな……わたし、ちゃんと自己紹介できるかな」 『きっと大丈夫だよ』  僕はこたえる。穏やかな風が僕らの上を通り抜け、いくつかの梢を鳴らす。 「うん、きっと大丈夫だよね」  花弥は自分に言い聞かせるように頷いた。  バスが来た。「いってきます」と花弥は言い、真新しい制服のスカートを翻しながらバスに乗り込んだ。 『いってらっしゃい』  僕はバスを見送る。誰もいなくなったバス停。季節の移ろいを繰り返し映し出すだけの、変わらない風景。  花弥の帰りを待ちながら、僕は思い出す。  最後に見た花弥の笑顔を。花びらみたいに染まった、あの頬の色を。
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