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序
“白金館”はおばけ屋敷として名高い洋館である。
呪われた館だからそこにいるだけで変死するだの、先代の主人から追われて
半地下室の使用人部屋に閉じ込められるだの、ろくな噂がない。
数々のメイドたちがここで働こうと足を踏み入れ、そして恐怖のあまり逃げ
ていった。
館は常にメイドの募集を出したが、やがて誰も、来なくなった。
応募者がいないので時給が段々と上がっていった。そのうち、もう仕事をし
なくていいから来てくれという趣旨が書かれるようになった。
メイドの「ふり」だけをするメイド――
すなわちステップガールである。
ステップガールとは。
住み込みの立派な執事やメイドを雇う余裕はない。けれど、うちの家だって
上流階級なのだと世間に誇示したい! そこで、客人を招く日などをねらって
日雇いで女の子にメイドの格好をしてもらって、庭や玄関周辺といった目につ
く場所で掃き掃除をしてもらう――いかにもわたしはメイドとして日夜働いて
ますよ風に。
それがステップガールと呼ばれるアルバイトで、家事能力といったメイドの
技能もいらない。
そんな白金館に、ひとりの少女が採用された。
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