第十四話 アリシア隊【アリシア】

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第十四話 アリシア隊【アリシア】

 戦場からひと月、花の月になった。  「どうだニルス?」 「・・・」 私とニルスの家が完成した。 大きくはないが、二人で住むには申し分ない。  本当は・・・ケルトもいればよかったんだけどな・・・。 ◆  「すごーい、新しいのはこんなに軽いんだね」 ルルが水の汲み上げ器を私よりも最初に使った。 せめて一言・・・。  「貯水槽も大きめだね。水だって腐るからその日に使い切れなかったら捨てるんだよ?冬だと凍っちゃうかもしれないし」 「ちゃんと説明されたよ。蓋も閉め忘れるなと言われた」 「ニルスも使う水なんだから気を付けてね。じゃあ次は中を見に行こー」 私の背中が押された。  「そんなに焦らなくても・・・」 「あんたは何度も見てるからいいけど、あたしは今日まで楽しみにしてたの」 「ルルも一緒に住んでいい」 「え・・・やだよ。ここお買い物に不便だしね。でも、遊びには来てあげる」 走れば鍛錬になるだろ・・・。 ◆  ルルと一緒に家の中を周った。 最後の扉は・・・。  「ニルス、ここがお前の部屋だぞ」 陽当たりが一番いいところだ。 使うのはまだまだ先になりそうだが、ベッドと机と棚はすでに用意してある。  「お母さんは気が早いねー」 ルルがニルスの頬を指でつついた。  「あとで必要になるならいつ置いても一緒だ」 「まあそうだけど・・・ニルスが大きくなってから一緒に見に行った方がよかったと思うよ」 ・・・そういうものなのか。 家具屋に相談したら「いいものを用意する」と言って勝手に選ばれた。  「それに二度の功労者で大金持ちになったのに・・・随分小さい家ね」 「孤児院じゃないんだ。このくらいで問題ないさ」 ここにケルトが来ることは絶対に・・・ない。 だから広すぎると、かえってニルスが寂しくなるだろう。・・・私もだが。  「まあ・・・仕方ないか。・・・で、いくらしたの?ずっと気になってたけど、今日まで聞くの我慢してたんだ」 「・・・七千四百万エール」 「え!!そんなにしたの!!」 「建材は一番いいものを使った方がいいってべモンドさんが・・・」 たぶん、私の人生でこれ以上高いものは買わないと思う。 あとは生活とニルスに必要なものくらいかな。 ◆  二人で昼を作って食べた。 今日は新しい家での一日目だし、ゆっくりするつもりだ。  「ねえアリシア、前にも聞いたけど・・・また戦場に出るの?」 ルルがニルスを見つめながら言った。 真剣な顔・・・子どものためにということなんだろう。    「当たり前だ。それに勝てば神から大地を返してもらえる。その分、人や物が増えるんだ。ルルの酒場も戦士がいるから繁盛している」 綺麗事を並べたが、私はただ戦いたいだけだ。  認めたくはないが戦闘狂とでもいうのだろう。 でもニルスは大事だから絶対に死ぬつもりは無い。  「まあそうね。たしかに戦士は稼ぎがいい、お金で困ることが無いのはいいことよ。でもさ、もう充分なんじゃないかなって・・・」 「はっきり言ってほしい」 「功労者になったら辞める人ってけっこういるでしょ?あなたは二回もなれた」 「私は・・・」 好きで戦場に出ている者があまりいないのは最近わかってきた。 鍛えた強さが金になると考えて集まる者が多い・・・。  功労者になって抜ける・・・それもありだ。誰も責めないし、それでも大陸中から戦士になりたい者が来るからな。  「戦いたいんだ・・・。もちろんニルスのことは考えてるから心配いらないよ」 「せめて前線じゃないところにしてもらうことはできないの?」 「どこにいても死ぬ可能性はある・・・」 戦闘をする機会が少ない治癒隊や支援隊も、素質が高ければいいわけではない。  死守隊まで突破されたりしたら武器を手に戦うし、以前のドラゴンのように空からの攻撃もあるから強くなければ出してもらえないのだ。  「気持ちは変わらない?」 「うん・・・変わらない」 「うちで給仕さんを増やすことになったんだ。それか・・・セス院長にも言われたみたいだけど、火山でケルトさんと暮らすとか」 「・・・私は戦士でいたい」 ケルトも大切だけど、戦いはやめられない。 それに、会いに行けばいいだけだからな。  「わかった・・・じゃあ約束して。ニルスのことは一番に考えること」 「ちゃんと考えているよ」 「寂しい思いさせたらダメだよ?」 「うん、わかってるよ」 ルルは心配性だな。 というか、私はそんなに頼りない母親なのだろうか・・・。 ◆    「じゃあ、あたし出るね。酒場にはいつでも来てちょうだい」 夕方近くになって、ルルが立ち上がった。 今日も戦士たちが集まって忙しくなるんだろうな。  「必ず行くよ。・・・ルル、いつもありがとう」 「・・・急になによ」 「私が一人だったとしたら、大変なこともたくさんあったと思う。・・・なんだか言いたくなっただけだ」 「・・・あたしをいじめっ子から守ってくれてたでしょ。だから今度はあたしが助けてあげるの」 ルルは照れくさそうに笑って帰っていった。 そんなの気にしなくていいのに・・・。  「ニルス、お前は誰かをいじめるような人間になってはいけないぞ」 「・・・」 ニルスは夕陽で赤く照らされ、その色の中で私を見て笑っている。  ケルトと私の子だ。 そんなことはしないだろうが、話せるようになったら教えてやろう。 ◆  新しい家での最初の朝・・・。 目覚めはとても気持ちのいいものだった。  野原の中にあるのは私とニルスの家だけだ。 そのせいか、周りの空気も新鮮に感じる。  「ふー・・・毎朝の日課にできるな」 そして、叫んでもまったく問題ない。 苦情なんて絶対こないだろう。  「ニルス、今日から訓練場には通わないといけない。宿舎は近くてよかったな」 「・・・」 ニルスは乳母車の中で眠っている。 走りたいが、さすがに揺らしたらかわいそうだからゆっくり行こう。 ◆  訓練場に着いた。 まだ入り口前なのに、戦士たちの気合が聞こえてくる。  「この乳母車は押しやすいな。お前が軽いおかげだ」 本当はニルスをここに連れてくるのは良くないことだというのはわかっている。  でもみんなこの子を受け入れてくれた。 というか、宿舎も本当はダメだったらしい。たぶん、べモンドさんがなんとかしてくれたんだろう。  「だれか頼める人を探さないとな」 「おうアリシア!!お前も今来たのか!!」 背中に大声がぶつかってきた。 ・・・バートンさんか。  「おうニルス!!今日もアリシアの乳吸ったか!!」 「・・・」 「なんとか言え!!まずはおはようだろ!!」 「あの・・・さすがにまだ喋れません」 声が大きくて騒がしいが悪い人ではない。  「赤ん坊は仕方ねーな!!よーし、俺がおもしれー話してやる!!」 バートンさんはニルスを抱き上げた。 話し方と違って、優しさを感じる手の動きだ。  「あの・・・鍛錬をしに来たのでは・・・」 「お前もだろ?行け!!」 「・・・いいんですか?まずは走ってこようと思っていたのですが・・・」 「任しとけよ!!」 私が鍛錬できるのは、いつも誰かがニルスを見ててくれるからだ。 ・・・感謝しなければな。 ◆  「あれ・・・」 走り終わってニルスの所に戻ると、バートンさんがいなくなっていた。  「本当におとなしいね」 「ああ、恐がってないみたいだ」 だがニルスは一人ではない、見知らぬ少年と少女が見てくれている。  私と歳が近そうだ。 まだ幼さのある顔立ち・・・たぶん、少し下だろう。 武器を下げているし、戦士になるために来たのかな?  決まりでは十二歳から訓練場へ入ることを許されているが、その歳で来たのは今のところ私だけらしい。  そういえば初めてここに来た時は、べモンドさんから「本気か?」と何度も聞かれたな・・・。  「君たちは・・・」 とりあえず話しかけた。 ニルスと一緒にいてくれたみたいだし、なにも言わないのは感じが悪いだろう。  「あ・・・アリシア様!」 「うわあ、会いたかったです!」 二人は私に気付くと背筋を伸ばした。 なんだこいつら・・・。  「初めまして、私はティララ・マホガニーと言います。こっちはスコット・ミレシア、十三です。大地奪還軍に入るために来ました!」 少女、ティララが元気よく声を張った。 十三か・・・。  「そうか、私はアリシア・クラインだ・・・」 「はい、知っていますよアリシア様。わあ、背もスコットより高い・・・」 話を遮るなんて失礼だな。 それにアリシア「様」とはどういうことだ?  「私たちはアリシア様に憧れてここに来ました」 「ティララ、俺にも話させてくれよ。雷神の隠し子・・・最年少の功労者と書かれた新聞を見てから全身の血が熱くなり・・・」 スコットが興奮した顔で私の前に立った。 なんだこれは・・・どうしたらいいんだ・・・。  「・・・というわけだアリシア。お前の活躍が、少なくとも二人の戦士を生み出した。頼んだぞ」 べモンドさんが薄ら笑いを浮かべながら近付いてきた。 ・・・頼んだ?  「わ、私にどうしろと・・・」 「お前が鍛えてやるんだ。教えることで身に付く力もある。その二人はまだ戦場に出せるほどではないが、待機兵くらいの実力はある。・・・頼んだぞ」 べモンドさんの足が後ろに下がった。  「しかし・・・」 「お前の隊を作ろうと思っていたんだ。二人を頼むぞ・・・頼んだからな」 「あ・・・」 べモンドさんは逃げるように奥へと走って行った。 困ったな・・・。  「ティララ聞いたか?やっぱりアリシア隊に入れてもらえるんだ」 「うん、頑張ろうね」 後ろの二人は盛り上がっている。  わけがわからない・・・。 それに私の隊?二人はなにか知っているのか?  「べモンドさんから何を聞いている?」 私は二人に振り返った。 全部話してもらおう。  「アリシア様の元で強くなれたら、雷神の隊に入れてやると言われました」 ティララは目を輝かせている。 勝手なことを・・・。  「俺たちは真剣です!今日から付いていきますのでよろしくお願いします!!」 「よろしくお願いします!!」 二人ともまっすぐな眼差しで私を見ている。 ・・・稼ぎたくて来たわけではなさそうだ。  「絶対に弱音は吐きません!」 「ぜひ、お導きください!」 だから、昔の自分を思い出した。  そうだ・・・私もこうだった憶えがある。 いいだろう、やってやる。強くなりたいなら、それも私と同じだ。  「弱音は吐かないと言ったな?一度でもあればやめてもらうぞ」 「はい!よろしくお願いします!」 「とりあえず走り込みだ!訓練場の外周を全力で十周してこい!」 「はい!」「了解です!」 二人は嬉しそうに走り出した。 私はその間に・・・。 ◆  「べモンドさん!私はアリシア隊など聞いていません。説明してください!」 べモンドさんの部屋へ飛び込んだ。 教えるのは構わない、でも勝手に話を決められていたのは我慢ならなかった。  「まだ先の話だ。・・・それにお前が大声を出すからニルスが驚いている」 ・・・そうだ、ニルスを抱いてきた。 我が子は、たしかにいつもより目を丸くしている。  「まだ戦場に出て三度だが、お前の実力は戦士の中でかなり上の方だ。そして、もっと強くなるだろう」 「なにを・・・私以上はいくらでもいます!」 「まあ聞けアリシア。死守隊、突撃隊、遊撃隊と経験してもらったが、お前は好きに暴れた方がやりやすいんじゃないか?ウォルターとジーナも言っていたぞ」 それは間違いではない。 この前も一番熱くなれたのは、好きに戦えるようになってからだ。  「だから自分の隊を持たせた方がいいと思ったんだ。そのために若い才能を育ててみろ。年下ならやりやすいだろ?」 「えっと・・・つまりあの二人を率いて暴れればいいのですか?」 「少し違う、遊撃隊と似ているがお前が叩くのは最奥の厄介な奴らだ。叫びの力があれば可能だろ?」 つまり・・・奥で暴れればいいんだな。 どんどん突っ込んで、強そうなのを相手にしていくということなんだろう。  「私はきのうの内に二人から話を聞かせてもらった。どちらも不死の聖女を守る騎士の元で修業をしていたらしい。力も少し見たが、多くの技術を教わっている」 不死の聖女か、アカデミーで習ったな。  何百年も生きているということしか憶えていないが、それを守る騎士はとても強いらしい。  ふふ・・・忘れてないこともあるんだな。 たぶん「騎士は強い」と聞いて興奮したからだろう。  「スコットは身のこなしがいい、お前より伸びるだろう。ティララはあの歳で治癒魔法を高い練度で使える。騎士のおかげか、十三の時のお前より強いぞ」 「そうなのですか・・・」 「ティララがいれば、負傷のたびに戻る必要はなくなる。お前とスコットで目の前の敵を蹴散らしながら最奥へ・・・」 「それができるのであればとても心強いです」 悪くないと思う。 いちいち戻るなんてしたくないからな。  「・・・家族も反対せずに送り出してくれたそうだ。戦士で一番強くなるまで帰ってくるなとも言われたらしい。・・・やりたいことだけを見ていろということだな」 「そうですか・・・もう帰れないかもしれませんね」 「あの二人もその覚悟で来ている。心配はいらないさ」 つまり、やる気は充分なんだな。  「お前に憧れて来たんだ・・・だから託す。叫び・・・雷鳴の力とでもいうのかな。それを活かす戦い方をあの二人と考えてみろ」 お遊びで押し付けられたわけではなかった。 べモンドさんなりに、私がやりやすい戦い方を考えてくれたんだろう。  「お前は剣の秘密を教えてくれたから話すが・・・私は戦場に少し飽きていた。・・・勝利しても歓喜が無くなっていたんだ。だが、お前を見ていると熱くなる・・・期待しているよ」 べモンドさんは立ち上がり、ニルスのほっぺをつついた。  この人が上にいた方が私はやりやすい。 だから、燃え尽きないようにずっと熱を持たせてあげよう。 ◆  想の月、二人を鍛えてひと月が過ぎた。 スコットもティララも弱音は一度も吐いていない。  「敵は休ませてはくれない。疲労は判断を鈍らせ、視野が狭くなる」 「もしそうなったらどうなるんですか?」 「死ぬだけだ」 まずは戦士の基本、体力と筋力を徹底的に鍛えた。 二人とも文句を言わずに従ってくれて、とてもやりやすい。  「戦場では常に走り続けると思え」 「止まらなければいいんですね?」 「そうだ。周囲の敵を殲滅しても安心してはいけない。気付いたら上空からドラゴンが火球を吐いていることもある」 「なるほど・・・」 話も真剣に聞いてくれる。 素直な子たちだが、まだ戦場に立っている姿は想像できない。  「では、今日から戦闘の訓練を始める」 「お・・・」「やった・・・」 二人が浮足立った。 ずっと待っていたんだろう。  「お前たちの長所を伸ばしていこうと思う。早速やるぞ」 「長所ですか?」 「そうだ、スコットは私と戦う。ティララはスコットに付き、安全な距離を保ちながら治癒をかけ続けてくれ」 私は剣を抜いた。 聖女の騎士に鍛えられていたと言うが、どのくらいなんだろうな。 ◆  「ぐ・・・つよ・・・」 スコットの剣が聖戦の剣を受け止めた。  「どうした!押し返してみせろ!!」 「うわ・・・よっと」 押し負けたスコットが後ろに跳んだ。  たしかに身のこなしがいい。躱す動きはすぐに反撃に出れるように先を考えている。 問題は力が足りないところか。 ◆  「治癒が追い付いていないぞ!!スコットを殺す気か!!」 「そんなことにはなりません!!」 ティララの動きはまだまだだ。  訓練場を大きく使い、どこまで付いてこれるか見たが、何度か治癒術を解いてしまっている。 こっちは体力をもっとか・・・。  だが、鍛えるのはおもしろい。 元々やる気があって来ているから、何度も食らいついてきてくれる。 まだまだ・・・もっと熱くなれるくらいにしなければ。 ◆  深の月、実践も交えての訓練を続けて、またひと月が流れた。  「アリシア、今日もいじめてんのか?」 「違います。鍛錬です」 「まだまだ戦場には出れないだろ。まあ最低でもあと一年は必要って感じだな。小僧と小娘だけだから遊んでるようにしか見えないけど」 ウォルターさんや他の戦士たちは、私たちをからかいに来るようになった。  「遊びに見えますか?」 「見えるね。そんなんじゃ戦場で死ぬだけだ。じゃあな」 二人のためになにかするでもなく、あざけ笑うとすぐに消える。 私はそれに苛立っていた。  「アリシア様、恥をかかせて申し訳ありません」 「気にするな。・・・心を乱さずに励め、お前たち二人はよくやっている。・・・だがその内見返してやろう」 「はい!もっと鍛えます!」 「絶対に見返してやりましょう」 二人の負けん気も大したものだ。 なにを言われても折れずに付いて来てくれたからな。  ・・・必ずバカにした奴らを驚かせてやる。  「もっと強くしてやる・・・いや、共に強くなろう」 「・・・」「・・・」 二人は力強く頷いてくれた。 必死な気持ちはとても熱い、私の体温も上がってくる。  「あいつら全員ぶっ殺してやりましょう」 「そうですよ。いつか・・・」 「そうだな。・・・殺しはよくないが、それくらいの実力を付けようか」 私たちの間には少しずつ絆ができていた。 三人で戦場を駆ける日をもっと近付けなければ・・・。 ◆  晩鐘が鳴った。  「ありがとうございました!」 「明日もよろしくお願いします!」 スコットとティララは宿舎を使っている。 食事が出る時間は決められているから今日はここまでだ。  「ニルス、夜はルルの所で食べようか」 私はニルスを乳母車に乗せた。  どんどん暑くなってきている。 もう夏・・・そしてニルスが生まれて一年・・・。  「ルルがお前のために味の薄いスープを作ってくれるぞ」 ニルスの歯が少しずつ生えてきている。 だから少しずつ食べる練習をさせなければいけないとルルが教えてくれた。  知らないことばかりだったな。 こんなことなら孤児院にいた頃に、赤ん坊の世話をもっとしておけばよかった・・・。 ◆  「すまないなウォルター」 「別に・・・」 訓練場を出たところで話し声が聞こえた。 べモンドさんとウォルターさんみたいだ。  「憎まれ役は辛いか?」 真面目な声で話していたから、私は身を隠してしまった。 このまま出て行くのもなにか気まずい・・・。  「少しな・・・あの二人、アリシアの動きに付いていけるようになってきてる。成長は割と早い」 私たちの話?どういうことだ・・・さっきは「遊びにしか見えない」と言っていたじゃないか。  「次は出せそうか?」 「死守隊でお前が見るならな」 あの二人が・・・次から出れる?  「前線は無理か・・・」 「アリシアじゃねーんだぞ。けど・・・その次ならたぶんいける。でも何人か付けた方がいい」 「そうか。・・・三人とも負けず嫌いのようだからな。これからもたまに煽ってやってくれ」 「その内言えなくなりそうだぜ。三人で背後から来られたら俺も危ない」 ・・・そういうことか。まんまと乗せられたな。  「酒場でも行くか?」 「奢れ、これのせいでアリシアを呼びにくくなってる。エイミィがニルスは?って毎日聞いてくんだぞ」 「悪かった・・・好きなだけ飲んでいい」 「早く行こうぜ」 話は終わったようだ。 ・・・仕方ないな。  「お二人も帰りですか」 私はなにも聞いていない感じで声をかけた。  「うおっ・・・アリシア。・・・いつからいた?」 「今出てきたところです。なにか?」 「いや、なんでもない。お前の部下はまだまだだって話してたんだ」 笑いそうになったが我慢した。 これはバレてはいけない。  「あの二人はもっと強くなります!!」 ・・・こんな感じで大丈夫だろうか。  「あー、わかったわかった」 「そのうち驚かせます」 「ふーん・・・頑張れよ」 あとは・・・。  「それと話は変わりますが、最近エイミィさんから呼ばれません。ニルスはもういいんですか?」 「いいわけねーだろ。・・・今日の夜泊まれるか?」 「あの二人がいるのでウォルターさんと仲良くはできません。・・・明日の朝は私よりも早く出てください」 さすがに一緒に訓練場には入れないからな。  「ああ、そうする。・・・最近はさ、俺との子どもじゃなくてニルスが欲しいって言ってんだ」 「ニルスは渡せません。ウォルターさんが頑張ってください」 「うるせー小娘」 ウォルターさんは照れ笑いを浮かべた。  昼間の態度は作ってくれていたんだな。 それがわかった今は、ただ調子のいい男に見える。  「さあ、ニルス。みんなでルルの所に行こうか」 「私が抱いていく」 「・・・どうぞ」 全然気づかなかった。 周りの大人はたくさん考えて私たちを見守ってくれていたんだ。  知ってはしまったが、しばらくは小娘のままでいてやろう・・・。 ◆  「ニルス、もうすぐ一歳だね。え・・・ジーナさんの家でお祝いしてほしい?仕方ないなー、でもあなた・・・まだ無理でしょ?」 「何を言っているんですか・・・」 酒場にはジーナさんがいた。 色々聞かれるから早く帰りたい・・・。  「ねえちょっと、もう話しちゃいなよ。あんたの旦那はどんな変態なの?」 「変態ではありません・・・」 ジーナさんはケルトのことをよく聞いてくる。 私が詳しく話さないのも悪いが、あまり教えたくない。  「十三の子どもを抱くような男がまともなわけないじゃん」 「本当に違います・・・」 私からだったとは言えない・・・。  「でも、来月にニルスを見せに行くんでしょ?」 ルルが料理を運んできてくれた。 そして余計なことを・・・。  「へー・・・抱かれに行ってくるんだ?何人作る気?」 「違います!ニルスを抱いてもらいに行くだけです!」 「わかったわかった。戻ったらまた聞くよ」 まあいい・・・結局知られるから、それが早くなっただけだ。  「ていうか、あんたもう成人したんだから手続きもしてきたら?」 「手続き・・・」 「夫婦になりますって、向こうが動けないなら書類だけ書かせて登録事務所に持ってきゃいいし」 「話してからにします・・・」 勝手に決めてはいけない気がする。 というか・・・別にそんなの無くてもいいんだけどな。  「あんたが行ったら別な女と寝てたりしてねー」 ジーナさんがいやらしい笑みを浮かべた。 ・・・ありえない。  「ケルトはそんなことしません!」 「わかんないよー、山奥だからって安心してるかもしんないけどさ。そうだな・・・森で迷ってた女がいて助けてあげた。お礼はこの体で・・・」 「そんなことあるはずない!毎晩愛してくれたし、風呂にだって一緒に入った!」 「え!なんだってー!もっと詳しく言ってよー」 ・・・言ってしまった。 それも・・・大勢の前で・・・。  「ウォ、ウォルターさんもう帰りましょう!!エイミィさんが待ってます!!」 「え・・・まだいいだろ。時の鐘だってまだ七つ目だ」 「早く立てーー!!!!!」 すまないケルト、これ以上は絶対に言わないから許してくれ・・・。 ◆  「また酒場に行ってきたの?」 「誘われたから仕方なくだよ・・・」 ウォルターさんの家に着いた。 エイミィさんはちょっと怒っている。  「けど・・・ニルスが来てくれた。今日は一緒に風呂に入っていいってさ」 「え・・・いいの?」 「な、アリシア?」 「・・・はい」 まあこれは仕方ない。 ニルスも嫌がらないからな。  「早くお父さんに抱いてもらえるといいねー」 エイミィさんはニルスを連れて風呂に向かった。 そうだな、早く抱いてほしい。  ケルト、遅くなってすまなかった。 あなたの種はちゃんと元気に育ってくれているよ。 ああ・・・どんな顔で抱いてくれるんだろう。
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