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 非番の日の朝、神保町の自宅マンションから見える皇居を見ながら、ショウはある男の携帯電話のメモリーを呼び出したまま、しばらく物思いに耽っていた。以前、まだショウが警察官になる前に、李俊明という男に口を聞いてもらい、歌舞伎町にある中国人クラブに潜入したことがあった。その時は何の成果も得られなかったが、あの時とは立場も、ショウが行使できる権限も異なる。今であれば李本人や中国人クラブの人間を検挙することもできる。けれども、ショウは警察官にあるまじきことではあるが、両親の事件、弟についての情報が得られるのであれば、そのまま目を瞑ってもよいとさえ思っている。警察官になって、逆に情報を得難くなったことは否定できない。迂闊に潜入して身分を知られた場合、命の保証は無い。ショウが警察官になったのは、人生の選択を他人任せにするのではなく、自身の手で捜査し、逮捕、決着をつけるためである。両親の命を奪った奴らを殺してやりたいという気持ちが全く無いとは言えない。けれども、法の下で厳正な処罰を受けさせるために、ショウは警察官という道を選んだと思っている。しかし何かが違う。ショウだって、初めから外国人犯罪を扱う立場になれるとは思っていないが、組織という大きな枠の中で、これまで募らせてきた思いに封をするような息苦しさを感じている。自由に動き回れるという面では、探偵にでもなった方がよかったのかもしれないが、ショウはそれ以上に、奴らを逮捕することができる力が欲しかった。  弟のリュウのことをふと考えてしまう。リュウは今頃、台湾で何を思うのだろうか?リュウがまともな仕事に就いているなんて、考えてはいない。それは彼の生い立ちを想像すればわかる。台湾に情報を得るために渡ったのか、それとも、すでにターゲットを見つけたのか定かではないが、リュウが何らかの目的があって国外に出たのは明らかである。ショウは、自分も前に進まなければならないと感じる。今、手の中に李俊明の連絡先があり、警察官という身分を隠して、再び接触すべきかを迷っている。あれから随分と時間が過ぎたが、李はまだ同じ番号を使っているだろうか? ショウは、窓に映る半透明な自らの顔を見つめながら、李の携帯番号にかけた。携帯電話の画面に、次々に数字が並んで行く。やがて、留守番電話の機械的なメッセージが流れた。ショウはすぐに通話を切った。李が出なくてほっとしたようでもあり、細い糸が切れたようでもあった。やはり、警察という身分を明かして、李に接触することは無謀だろうか? そう言えば、警察学校に入る前に顔を出して以来、W書店のT社長にも会っていない。T社長にも警察官になったことをまだ話していなかった。  夜の歌舞伎町。警察官の制服を着ることに慣れ過ぎたせいか、私服を着て歩くことに気恥ずかしさを感じる。警察官の制服という奴は、それを着た者にしかわからないが、人格を変えるほどの重みがある。だから私服を着た時は、ウェイトを外されたように、心が宙に浮いてしまいそうになる。あれからT社長に連絡を入れると、相変わらず夕方から新宿二丁目に飲みに行くと言う。ショウは会う約束をした。警察官になったことは伝えられなかった。  T社長が経営しているW書店は、アダルトDVD専門の、所謂「セル店」と呼ばれる店である。モザイクの無い違法なものを販売しているわけではないが、そういう違法な店の摘発は、T社長にも店で働く従業員にとっても対岸の火事では済まされない。歌舞伎町のヤクザとも密接な付き合いがあり、アダルトDVDの世界は、それを作る方も売る方も、常に警察の動向を気にかけながらの、グレーゾーンで商売をしている。最近はインターネット動画の影響からか、DVDが売れず、利幅の大きい中古DVDを買い取り、販売するようになったとT社長が言っていた。管轄の警察署の生活安全課とも関わるようになったが、それでも取り締まる側と、取り締まられる側の構図は変わらない。T社長の中にも、警察権力に対して、相容れない敵対するものが少なからずあるはずだ。特に若い頃からやんちゃをしてきたT社長にとって、警察に対するアレルギーがあってもおかしくはない。ショウも一時期、W書店で働いていた時に感じていた、警察の高圧的な態度に反発心が無かったと言ったら嘘になる。けれども、今は、ショウがその立場になってしまった。T社長にどう話を切り出そうか、迷っていた。  懐かしい、歌舞伎町の一角の雑居ビルの地下に降りて行く。相変わらず地下へと降りる階段脇の壁には、AV女優のポスターがでかでかと貼り付けてあり、大音量の洋楽が店内に流れていた。ショウが扉を開けると、大学生くらいの若い黒眼鏡の店員が、レジの前に立っているのが見えた。 「タザキです。T社長は?」 「ああ、タザキさんっすね、社長は奥にいますよ」  ショウはいつも通り、コンビニエンスストアで缶コーヒーを5,6本買い、袋のまま店員に渡した。見覚えのある顔だった。 「あざっす、俺、サカモトと言います、タザキさんのことは社長から時々聞いてます。朝までコースの時とか」  ショウが苦笑した。 「大変だね、朝まで酒に付き合わされてんのか、行きたくない時は、はっきり言ったらいいんだよ、T社長という人は、無理強いするような人じゃないから」  サカモトが首を横に振った。 「無理っすよ、少なくとも俺には無理っす。タザキさんのようにバッサリ断れる人は、他にはいませんって、社長がよく酔っ払ってそう言ってます」 「褒められてんのかな? 有難う」  レジカウンターの脇から事務所に入って行く。確かに、ショウは相手がT社長であろうと、地回りのヤクザであろうと、自分の伝えたいことはハッキリと伝えてきた。一般のビジネス社会で、それが通用するか知らないが、少なくともT社長やヤクザな世界にあっては、自分の言葉でハッキリと意志を伝えられない奴は認められない。だから反対意見でも、それが根拠のあるものであれば聞く耳を持つ。若い頃に散々社会に対して反発してきたからなのかもしれないが、素直なイエスマンよりも、我の強い少し扱い難い奴の方が好まれる。ショウはその見た目とは異なり、そういうタイプの人間だった。だから、T社長に可愛がられ、今でもこうして付き合いが続いている。 「ご無沙汰してました、すみません、連絡も入れずに」  T社長の表情は硬かった。 「おう、心配したぞ、どうしたんだ? 弟は見つかったのか?」  ショウはT社長の対面の椅子に座り、首を横に振った。 「そうか、ところで、お前、あれからどうしてた?」 「実は、就職しました」  T社長が缶コーヒーを開け、椅子の背もたれに深く寄りかかる。 「そうか、よかったな、で、何の仕事だ?」  ショウはT社長の目を見た。 「警察です。」  T社長は一瞬頭の中が混乱したようで、意味も無く頷いていたが、ようやく事態が飲み込めたようだ。 「マジか! マジで?」 「本当です。しばらく府中の警察学校に缶詰になってました。今は千代田区管内の万世橋署地域課にいて、交番勤務してます」  T社長は口を開けたまま、腕組みした。 「マジかぁ、驚いたな、まさかお前が警察官とはな、参ったな」 「すみません」  ショウが頭を下げる。 「何も、お前が謝ることなんかないよ、よかったじゃないか、おめでとう、ご両親の事件のこと調べるつもりなんだろう?」  ショウが頷いた。T社長は腕時計を見た。 「もう少ししたら二丁目行くぞ、さすがの俺も、警察官連れて飲みに行くのは初めてだ。今日は付き合えるんだろう?」 「はい、今日は非番で、出勤は明日の夜勤からですから」 「そう来なくっちゃ、さすがお前だな、俺にもとうとう警察官の仲間ができたか。俺とお前とで組んだら、恐いもの無しだな」  ショウが苦笑した。 「おう、イサオの店に行くぞ、イサオを逮捕しに行く!」  T社長は上機嫌だった。 「腹ごしらえすっか?」 「いえ、大丈夫です、イサオの所で何か作ってもらいますから」  二人は花道通りを風林会館まで歩いた。途中、ホスト風の客引きに声をかけられると、T社長は笑いながら近づいて腕を取った。 「こいつ、逮捕しちゃうぞ!」  上機嫌でおどけてみせる。ホストの顔が引き攣るのを見て、ショウも爆笑した。この辺りには、以前ショウが潜入した中国人クラブ「F」がある。この時間はまだシャッターが降りているはずだが、果たして深夜のドラッグパーティーはまだ行われているのだろうか? 例え、李俊明から連絡が無かったとしても、近々調べてみるつもりではいたが。二人は区役所通りから靖国通りに出ると、花園神社の前を抜け、明治通りを渡った。イサオの店はすぐそこだった。 「イサオには、俺が警察官になったこと、黙っといてもらえませんか?」 「ん? どうしてだ? 都合でも悪いのか?」 「警察官と聞くだけで、人の見る目が変わります。犯罪に絡むようなヤバい情報は、逆に俺の耳に入り難くなるんじゃないかと思って」 「確かにな、サツの前で、わざわざヤバい情報漏らす奴もいないし、話し難くはなるわな、よし、わかった、このことは俺とお前の秘密にしよう」  T社長が、ニヤリとした。  店に入ると、イサオが仏像みたいな顔をして、カウンターの向こうに座っているのが見えた。 「イサオ、元気か? その節は色々と世話になったな」  イサオが立ち上がり、目を丸くした。 「あら、ショウ君、また来てくれたのね、T社長もいらっしゃい、さ、さ、座って、座って、とりあえずビールでいいかしら?」 「おい、イサオ、お前、暇なのかよ、トドみたいな顔でぼうっとしてたろ」 「うん、最近、ちょっと暇なのよね、特に早い時間は誰ぁれも来やしないんだから。日本の景気、どうなってるのかしら? ナントカミクスなんて、あれ、全部絵空事よね、ちっとも景気なんて良くなんない」  イサオはそう言いながらビールを二人に出した。 「お前のとこだけじゃないぞ、俺の店だって、ここんとこさっぱりだ」 「アダルトDVDの業界もそうなの? 風俗産業って廃れないのかと思ってたのに」 「いや、そうじゃない、性風俗の需要自体は無くならないだろうけど、客がそれを入手するメディアが変わったのさ、小遣いが少なくなった連中はむしろ風俗店より、エロ動画に流れてんじゃないかと思うよ。それでもDVDが売れないのは、やはりインターネットのせいなのさ。だって、俺たちがガキの頃はDVDすら無くて、皆VHSだったろう? あの機械の大きな音にビクビクしながら、エッチなビデオ観たわけだよ。それがやがてDVDになって、今じゃ、ネット配信の世の中だ。無修正の動画が無料でネット上に転がってる時代に誰が金出してDVD買うんだ? 日本じゃまだ無いが、台湾じゃあ、日本のDVDのコピーが一枚百円程度で普通に販売されてる。店舗全てがコピー商品で、日本の新作の発売日に合わせて、コピーの予約販売までしてる有様だよ。」 「コピーなのに、新作予約ですか?」  ショウが苦笑した。 「そうだよ、あれはきっと、日本のヤクザが絡んでる。時々中国人がDVDを大量買いして行くが、それを本国に持ち帰って、コピーして売るなんてのはまだ可愛いもんだ。去年、日本のアダルトメーカー、販売店の有志で台湾に視察に行ったんだが、あれ程の規模でコピー販売できるのは、それなりの組織でなければ無理だ。真っ当な企業がやるはずもないから、きっとマフィアの傘下企業なんだろうって。日本じゃあ、まだそんな事態にはなってないが、いずれそうなる可能性もある。現に、ネット上では無料でしかも無修正動画が垂れ流しになっているわけだし、今後も海外のサーバー経由で、無法地帯はどんどん広がって行くんじゃないかって」  ショウが真顔でT社長を見た。 「T社長は去年、台湾に行ってるんですね」 「ああ、視察でな、結構楽しかったぞ」 「実は、弟が今、台湾にいるという話を聞きました。俺も台湾に興味があって、ぜひ行ってみたいんですが、今の仕事をしていては行けそうにもありません」  T社長がイサオに聞こえないように、ショウの耳元まで顔を近づけた。 「警察官って、連休取れないのか?」 「まだ入ったばかりで詳しくはわかりませんが、シフト制なんで、なかなか連休を取るのは難しいようです。それに行き先がどうだとか、届け出るものが多くて」  T社長が腕組みした。 「そうか、面倒なのか。俺たちは警察の一面しか見ていないからな、派手に犯人を捕まえるなんて、テレビドラマの中の警察の姿が全てだと思ってしまうもんな」  イサオが聞き耳を立てている。 「え? 何、何、警察が何だって?」 「何でもねえよ、この前、店に新宿署の生活安全課の奴が来たって話してたんだよ、中古DVD扱ってんだろ、古物台帳見せろとか何とか・・・・・・」 「あら、そうなの?」 「その時、生活安全課の奴が言っていたんだが、最近は特に中国人絡みの窃盗による盗難品が中古市場に大量に出回っているらしく、特に家電やゲームソフトなど中心に一軒一軒台帳調べてんだとさ」 「確かに中国人窃盗団が盗んだ品物が中古市場に流れているケースが多いんですよ、自分もこの前、秋葉原のある家電量販店から大量に盗まれた事件の初期対応をする機会がありました。手口も大胆で、中国人観光客の爆買いのように見せかけて、店の服を着た男が日中堂々と商品を外に運び出したというから驚きです。今や、大型量販店は、客の数もスタッフの数も多いですから、一人や二人知らない人間が混じっていても、たいして気に留めなかったようなんです」  T社長が苦笑した。 「相変わらず、この国は平和ボケしてんな」 「今、警察では、都内の中古ショップを中心に、仕入れに不審なものはないか、生活安全課の協力を得て一斉に動いている最中です。闇から闇へと流れるものと違って、必ずどこかで足が付くと思います。それと・・・・・・」  ショウは一瞬躊躇った。 「さっき店で偶然見つけたのですが、いつから脱法ドラッグ扱うようになったんですか?」  T社長がバツの悪そうな顔をした。 「ま、まあな、本業の調子が悪いからな、グッズや他の商材を扱わなければ、DVDだけでは、もうやって行けないんだ、実は」 「気をつけた方がいいです。今は脱法でも明日は違法かもしれない。それに警察は、いちいちそれが違法かどうかなんて、本当は気にしちゃいません。社会的に摘発の機運が高まれば、意地でも摘発に乗り出しますし、注目度が低ければ黙認したりもします。右往左往しているのはメーカーや販売店だけで、警察は垂れ込まれなければ動きませんが、垂れ込まれれば動きます」  T社長は煙草に火をつけた。 「なんじゃ、それ?」  一度大きく煙を吐き出し、顎を突き出した。 「はい、はい、わかったよ」  灰皿で煙草の火をもみ消した。ショウが、おかわりのビールを頼んだ。 「それから、イサオ、前に紹介してもらった李という男のこと覚えてるか?」  イサオは一瞬眉間に皺を寄せ、すぐに掌を打った。 「ああ、思い出した、ウチのお客さんの知り合いで、歌舞伎町のクラブ「F」に出入りしていた男よね、それがどうしたの?」  ショウがイサオの目を見た。 「もう一度、その男に会いたいんだ」  イサオはショウの目を見返したが、圧倒されて目を逸らした。 「何か、ショウ君、雰囲気変わった。入ってきた時はわからなかったけど、今、ショウ君の目を見てたら、急に恐くなったわ、どうしちゃったのかしら?」  ハッとして、ショウも目を逸らした。 「いいわ、今度、そのお客さんが来たら、もう一度ショウ君に電話するように頼んだげる。携帯の番号変わってないわよね?」 「ああ、前と同じだ、恩にきる」 「ショウ君、まだ弟さん見つかってないのね、あれから二年経つけど」 「弟は今、台湾にいる」  イサオが瞬きした。 「じゃあ、会えたんだ」 「いや、タッチの差で会えなかった」 「そうなの、残念だったわね」 「李とかいう中国人は何者なんだ? ただの小遣い稼ぎの情報屋とは思えんが」 「実はね、ショウ君、その李って男だけど、去年何度か店に来たことがあるの、短髪のガリガリに痩せた背の低い男でしょう?」 「そうだ」 「確か、他にも中国人が一緒だったわ、もう一人は全く日本語が話せないみたいで、その李という人が通訳しながら日本人と何やら話していたわ」 「その李という男と「F」に行ったのか?」 「え、まあ」 「お前、本当に恐いもの知らずだな、俺だって一人じゃあ、そんな危ない店に行けねえよ、それで、どうだったんだよ「F」は?」 「それが、何も得られませんでした。クスリやってる奴らの溜まり場ってだけで、特別両親の事件につながる情報はありませんでした。ただ、中国本土の主に福建の蛇頭の組織だと思うんですけど、中古美術品を専門に扱う窃盗グループがいて、どこかで闇のオークションが開かれていると聞きました。その情報を持っていた男は、国内で盗品バッグや時計、アクセサリーを売り捌いている奴で、名前はわかりませんが、李とは対照的に小太りで銀縁の眼鏡、そう、左手人差し指を第一関節から欠損していました」  イサオが渋い顔をして、自分の左手人差し指を右手で握った。 「お~嫌だ、人差し指欠損だなんて、お~恐わ」 「中国本土に盗品の闇オークションが存在するとはな」  ショウが頷いた。 「俺も、あの後、お前のご両親の事件のこと調べてみたんだが、十数年前の事件とは言え、全くと言ってよいほど情報が無いんだな、よく海外で起きた事件の情報が遺族に届かなくてヤキモキするとは聞いたが、本当なんだな、あれ」 「でも、変なんです、ウチの祖父が当時全力で調べたはずなんですけどね」  T社長が笑った。 「そりゃ仕方ないよ、俺はお前のお祖父さんのことは知らないけど、田舎に住んでるお前のお祖父さんがどんなに頑張って調べたって、たかが知れてんだろ」  ショウは喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。 「そうですよね」 「ところで、お前の親父さんって、画家だったのは知ってたけど、結構有名だったんだな、調べてみて驚いたよ。「タザキノボル」って言ったらコレクター垂涎の絵画になってるそうじゃないか、ハダ君から聞いたよ」  ショウは眉をひそめた。 「ハダさんから・・・・・・ところでT社長、僕がタザキノボルの息子だということを、ハダさんに話しちゃいました?」  T社長はにんまり笑って、首を横に振った。 「いいや、それは明かしてない。俺もそこまでバカじゃない。だって、それを知ったら、お前を利用しようとする奴が出てくるかもしれないだろう? ハダ君は決して悪い奴じゃないと思うが、あの若さでのし上がるんだ、普通じゃない」 「さすが、T社長、ハダさんが僕のことを覚えているかどうか知りませんが、警察官になったということも言わないでください」  T社長が頷いた。 「ああ、わかってる、俺とお前の秘密だもんな、心配するな。ところで、お前、親父さんの絵画、一枚くらい持ってないのか?」 「残念ながら、自分は一枚も持っていません」 「だよな、俺はまた、お前が実は大金持ちなんじゃないかって一瞬想像して涎が出ちまったよ。そうか、一枚も持ってないのか残念だな。今度、またハダ君が来たら、詳しく聞いてみるよ。でも、そう言や、彼、最近来ないな。忙しいのかも知れない」  T社長が携帯電話の着信履歴を調べ始めた。
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