6(完)

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6(完)

「悪霊に処女切られるなんてホンマ気の毒なやっちゃ」 「またその話かよ、蒸し返すな」 「ええやん別に、なんぼでも笑える」 「面白がってんのはお前だけ」 現在……俺と茶倉の関係は複雑化している。元同級生で友人、所長と雑用係、兼セフレ。主と従でたとえるなら間違いなく茶倉が主で俺が従。誤解してほしくないのは、この関係が半ば不可抗力であるということだ。 十年前、俺は茶倉に霊姦体質だと診断された。即ち……悪霊を寄せ付けて、強姦されやすい体質なのだ。世の中には稀にそーゆー突然変異がいるらしい。 「お前のオーラは霊を惹き付ける。で、そん中には厄介な悪霊がぎょうさんおる。ここで問題。生きてる人間の体を乗っ取りたがっとる連中は、どこから入ってくるでしょうか」 「なんでケツなんだよ、目とか口とか鼻とか他にもあんじゃん」 「それはそれでグロいやろ」 霊姦体質の人間が霊を取り込む部位はばらばら。ある者は口から吸いこみ、ある者は目から取り入れる。 俺の場合はたまたまケツだった。しかも普通の入り方じゃなくて、その、アレだ。アレなのだ。わかれ。察しろ。 「諦めろ。お前のケツがたまたま悪霊バキュームやったんや」 「せめて名器といえっ、ぁあああッ」 前戯代わりの数珠転がしで一通り俺の体を浄めた(?)茶倉が上体を起こし、ズボンを下ろす。生唾を飲む。下着から飛び出た茶倉のペニスは形よく、既にカウパーを滴らせていた。茶倉が口角を片方上げる。 「物欲しそな顔しよってからに」 「……してねえもん」 嘘だ。俺は茶倉自身から目を離せない、早く入れてほしくてたまらない。 「ん……」 茶倉が色っぽく切ない表情で目を閉じ、自分のペニスに数珠を巻いていく。数珠の表面に歪んで映り込む俺の顔は、どうしようもない劣情に火照っていた。 「早く祓ってくれ」 「今くれたるからええ子にしとれ」 じれてせがむ俺を、茶倉がニヒルな笑顔でなだめすかす。崩れた色気にぞくりとする。 霊姦体質は四六時中悪霊に狙われている。 俺の場合、それは常に強姦魔に見張られてるのと同じ事だ。 茶倉がくれた数珠を肌身離さず身に付けてるおかげで、どうにか貞操を守れてきたが……悪霊の瘴気を吸収しすぎた数珠はやがて黒く濁り、限界を迎えると同時にブツンと切れる。 俺は数珠が爆ぜ散る前に茶倉の所へ行き、「浄化」してもらわないといけない。じゃないと日常生活を送るのすら困難だ。 「今日だってお前、俺が貸したった数珠がなけりゃヤられとったで」 「相手は家庭持ちだぞ」 「アホぬかせ、幽霊になってもたら関係ない。さまようてはる期間が長いほど理性は薄れてく」 「うち帰りたいからエレベーター乗ったヤツが浮気するかよ、それも男と」 「自分の身になって考えてみい、ヤりたい盛りのエロガキ時分はマンホールにもムラムラしたやろ。もぐれる孔ならなんでもええんじゃ連中は」 茶倉の除霊法は独特だ。顧客が口外したがらないのも納得。一方でセクハラだの何だの訴える依頼人がでないのは、合意の上で事に及んでいるからか。 「ふ……、」 数珠がギチリと茶倉の肉に食い込む。見るからに痛そうで顔をしかめる。さらに手を伸ばし、鈴口に膨らむ雫をすくい、丹念に塗り広げていく。 「準備万端」 茶倉が俺を押し倒す。指で寛げたアナルにカウパーを塗し、まだるっこしい手付きで前立腺を探り、先端をぐっと押し当てる。 「ふぁっ、ぁっ、ぁあっ――――――――――」 体重をかけて押し入ってきた肉のかたまりにこじ開けられ、無我夢中で喘ぐ。 「ぁッ、茶倉それすげっ、気持ちいいっ、前立腺あたるっぁあっイっちゃうっ」 「除霊で感じちゃ世話ないで淫乱!」 「うるっ、せ、ぁあっ、ひあっ、ふぁあっあ」 ペニスに結んだ数珠がコリコリ媚肉を巻き返し、アナルパールを抜き差しされているような被虐的な排泄感に仰け反る。これが茶倉流の除霊だ。コイツは依頼人……憑かれた人間の体内に直接霊力を注入し、悪霊の残滓を一掃するのだ。 絶倫でイケメンで金持ちで、これじゃあ儲かるはずだとやっかむ。本人曰く別のやり方もできるらしいが、セックスが一番効率的なのだそうだ。 「ぁッ、あッ、ぁあっ」 数珠の束縛がキツいのか、抽送が負担をかけているのか、茶倉も額に汗を浮かべていた。体を繋げているせいで混沌としたイメージが脳内に流れ込む。茶倉がこれまで祓ってきた悪霊の姿が、依頼人の顔がめまぐるしく錯綜して悪酔いする。 「見境のォ感応すないうとるやろ」 「自分で、コントロールできたら、苦労しねえよっ!」 霊姦体質の弊害は、中に入ってきた存在の記憶を強制的に見せられること。 今までさんざん嫌なものを、おぞましい最期を見せられた。俺に最初に取り憑いた男はラブホで殺されたのだ。動機は痴情の縺れ。絶頂に至る寸前、ふいに茶倉が動きを止める。 「理一ィ……一か月ご無沙汰の間によそで男ひっかけたな?」 「ふ、へ?」 「締め付け具合でわかるわ、淫乱が」 軽蔑しきった表情で罵られ、耳まで真っ赤になる。 「仕方ないだろ……お、俺の体は悪霊に開発調教されて、後ろでやる快感に目覚めちまったんだ」 「オモチャ使たアナニ―で満足せい」 「物足りねえもん」 「そっちもしっかりやっとんのかい」 俺は高1の頃からゲイだ。 悪霊にヤられたのがきっかけでアナルセックスにハマっちまったのは人生最大の汚点。むしろトラウマを快感で上書きしようとしてるのでは? 素人分析は抽送の再開で散らされた。茶倉が怒りも露わに腰を叩きこみ、出たり入ったりするうちに白かった数珠が黒く染まっていく。 「理一ん中から出てけザコ霊ども!」 「ぁぁ―――――――――――――――――――――ッ……」 瞼の裏で閃光が爆ぜ、脊髄から脳天へ落雷が駆け抜ける。ずちゅると糸引き抜かれたペニスと俺の手の数珠をほどき、一足先に賢者タイムの茶倉が呟く。 「除霊完了。ぎょうさん出してスッキリしたな」 確かに体が軽くなった。気のせいか視界も明るい。ぐったりソファーに突っ伏す俺をよそに、茶倉が背広に袖を通して言った。 「二時に依頼人くるから換気せい。匂いがこもってかなわんわ」 「情緒ってもんがねえのかよ」 「後戯とピロートークご所望かいな?残念、他のヤツとオイタしてへんかったら考えたのに」 俺はコイツと離れられない。俺の特殊体質を知ってるのは世界中でコイツだけ、弱みをがっちり掴まれてる。よしんば他の霊能者でも除霊は可能として……出会うはしから悪霊にケツ狙われてるなんて、赤の他人に言えるか? ティッシュをとって後始末してる最中、茶倉が片手を突き出し催促してきた。 「ほい」 使用済みティッシュをのせようとしたら手の甲をはたかれた。 「アホか!ちゃうわ!数珠返せ!」 「さっき返したじゃん」 「もういっぽんあるやろ。がめようて魂胆ならいてこますどワレ」 茶倉の目が凄味を含んで据わる。あこぎな取り立てにハッとしてポケットを裏返し、さっきまでしてたのとは色違いの数珠を献上した。 茶倉が漸く表情を緩め、ビロードのケースに数珠を収納する。 何も言ってこないから、渋々こっちから口を開いた。 「親父、退院したよ。奇跡的な回復力だって医者も驚いてた」 「さよか」 俺が親父の看病で一か月不在にしてた間、茶倉は特別な力を込めた数珠を貸してくれてたのだ。 「レンタル料いくら?」 「貧民がいらん気ィ回すな」 「けど」 ソファーの背凭れに腕を回し、テーブルに長い足を投げ出した茶倉が飄々とうそぶく。 「友達価格ってやっちゃ。セックス一回でまけたる」 親父が退院できたのは数珠のご利益だろうか、厄を撃退する茶倉の力だろうか。 俺はまだ当分コイツの世話になるんだろうな。
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