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「はやくっ、ぁッ、もたねッ」
「こらえ性がないな」
数珠が右手首を締め上げて痛い。茶倉が自分の手から抜き去った数珠を、俺の胸板で転がし始める。シャツ越しに擦られた乳首が尖って形を浮かすのが恥ずかしい。
「ンっ、ふっ、ちゃくらそこ、ぁあっ」
「えらい瘴気がたまっとんな。せやからまめに通ってこいゆーたやん、最低でも週一でガス抜きせんと」
茶倉が淡々と呟き、新たな数珠を取り出して俺の両手を束ねる。頭の上で縛られた両手にギチギチと数珠が食い込む。滑らかな手が素肌を這い回り、過敏に尖りきった乳首を摘まみ、カウパーで汁だくになったペニスをぐちゅぐちゅしごきだす。
しこった乳首をさんざん舌でいじめぬき、根元から搾り立てて茶倉が囁く。
「ホンマ、難儀な霊姦体質やな」
この体質を自覚したのは高1の時。ある夜を境に、毎晩のようにどす黒い影に犯される夢を見始めた。
当時の俺は思春期ってヤツで、四六時中Hな妄想を繰り広げちゃ悶々としていた。
それは認める……認めるが、せいぜいがクラスで一番可愛い女の子といちゃいちゃしたり若い女の先生とスケベな個人授業をする程度で、夜毎謎の影に強姦されるなんてわけわからないシチュには断じて憧れてない。
やがて謎の影は実体をとり、夢から抜け出して俺をヤりまくるようになる。
ギシ、とベッドが軋む。体の上に何か黒くてモヤモヤした人型のもんが乗っかっていた。当時の俺は面白半分でネットの心霊動画を見ていた、馬鹿な高校生だった。で、すぐ幽霊に寝込みを襲われたのだとわかった。
マジか、霊とか実在したのか。
実体験として怪談サイトに投稿しようかな、金縛りだけじゃパンチが弱いか、他に何かねえと……その時はまだそんな事に気を回す余裕があった。ちょっとだけ感動してもいた。もし手が動いたらスマホのシャッターを切っていた。
しかし、しかしだ。「他に何かねえと」とは思ったが、「ナニをされたい」なんて望んじゃない。
『ッ!?』
突然Тシャツがまくれあがり、成長期の途上の薄い胸板と腹筋を剥き出しにされた。続いて素肌を這い回る生々しい手の感触。
『あっ、ふっ、ンあっ、えっ?』
ナニされてんの俺。ナニされてんのか。脳内の混乱が収束した後にやってきたのは圧倒的な恐怖と嫌悪。謎の影は俺の裏表を好き放題にまさぐり、遂にズボンを脱がす。
『!やめっ、ぁぁ』
膝までズボンを下ろされた。当然下着ごと。露出したペニスに黒い手が絡んでしごきだす。目に映る光景は全てが悪夢めいていた。喉と舌と口は動く。絶叫すれば他の家族が気付いて助けにくる?
そこまで考え、この状態で人を呼ぶのを躊躇する。
『あッ、ぁっ、ぁあっ、ンあっ、よせっ、痛ぐ』
体内に出たり入ったりする熱くて太い何か。見えないのにエグい質量を感じる。途中で金縛りが解けても挿入されたまんまじゃ逆らえない。シーツをかきむしり枕を噛んで喘ぎ声を殺す俺を、体にのしかかった黒い影は嗤っていた。
一晩中乳首やペニスや耳たぶをいじくられ、ケツの奥の前立腺をぶっ叩かれ、ろくに睡眠もとれない日々が続く。本当に生き地獄。
なお悪いことに、正体不明の影に連日レイプされてるうちに変化が起き始めた。最初は瞼の裏を過ぎる映像だった。
『んッ、んッ、んんッ!?』
枕カバーを噛み、こみ上げる快感に耐えてるうちに、ここじゃない部屋の光景がぼんやり浮かび上がる。安っぽいピンクの壁紙と鏡張りの天井……ダブルベッドの上には大人の玩具が散らばっていた。ローターとかバイブとかアナルパールとかそういうの。
『ぅあっ、ンっ、んだこれっ』
俺もエロいことに興味津々な高校生、エロ本とか友達んちでこっそり鑑賞会したAVとかでその手の卑猥な道具の知識はあった。で、その部屋が場末のラブホってのもわかった。瞼の裏で繰り広げられているのは性行為、しかも男同士の。何故男同士ってわかったかって……説明するのもうんざりだが、正面の鏡に一部始終が映っていやがったのだ。イメージの中の俺は若い男を組み敷いてガツガツ犯してるが、現実じゃ犯される側だ。てことは強姦魔と視点を共有してる?一種のテレパシー、デジャビュ?
『あぅっ、んあっやっそんな強くしたらィっちゃ、待っよせっ変なもん見せんな!』
最悪だった。五感を伴った猥褻な映像に脳内を犯されて、現実じゃ正体不明の影に犯されて、二重に快感が増幅される。犯されながら犯して、犯しながら犯されて、双方の感覚に苛まれるのがたまらない。
『~~~~~~~~~~~~~ッぁぁあ!』
びゅくびゅくと痙攣したペニスが粘っこい白濁をまき散らし、その夜何度目かの絶頂を強制される。
両親や先生、友達には相談できない。そもそもなんていえばいい?悪霊にアナル開発済み、現在進行形で調教されてますってカミングアウトしろと?心療内科に連れてかれるのがオチだ。
『どうしちまったんだよ俺の体……』
連日連夜こんな夢を見続けるなんて、ひょっとしてゲイなのか?男に抱かれたい、あるいは男を抱きたい潜在願望の表れなのか?
誰にも言えない悩みを持て余し、飯は喉が通らず口数は減っていく。
そうこうしているうちに「影」の所業はエスカレートし、真昼間だろうと無節操におっぱじめるようになった。
『ふっ、うううっ』
もし今俺に突っ込んでる強姦魔が実在の人間なら逮捕できるが、幽霊じゃどうしようもない。
コイツは性欲のかたまりで、授業中も関係なく犯してくる。机でノートをとってる時も前に出て板書してる時も、見えない手でケツを揉みしだかれて抽送される。当然シャツの下の乳首は勃ちっぱなし、ズボンにはテントが張って前屈みにならざるえない。
『問3は烏丸、といてみろ』
『は、い』
教師にあてられ、怪しまれないように返事をする。今されてる事がバレたら学校生活の終わりだ。右手と右足、左手と左足が一緒に出る歩き方で黒板へ行き、チョークを握る。
数学の方程式をといている間も影は容赦しない。ていうか、俺が手も足もでないのをいい事に調子のりくさって無茶苦茶する。
『ふぁっ!?』
『どうした』
『な、なんでもありませ、ンんっ!』
耳たぶに吐息を吹きかけられて腰が砕ける。内股でもぞ付き、前屈みにチョークを動かす俺に教師が不審げな一瞥をよこす。クラスメイトも怪訝そうだ。見えない手に胸を揉まれ、股を淫猥にこねくり回され、さらにはデカいブツで追い立てられる。
『んッ、んッ』
ピク付く尻を視姦する無数の視線。ズボンの内側で収縮する括約筋。
下唇を強く噛み、チョークの先端で気忙しく黒板をひっかく。出たり入ったりするペニスが的確に前立腺を押し潰し、羞恥の極みで絶頂に至る。
『~~~~~~~~~~ッ!』
我慢の限界。筆圧を込めすぎたチョークをへし折り、その場にへなへな崩れ落ちていく。
『どうした烏丸、具合悪いのか。ん?何か変な匂いがするな』
『先生すいません、保健室に……』
『わかった、保健委員に』
『一人で行けます!』
むしろ一人じゃないと不都合だ。不自然な前屈みで教室を逃げ出し、ダッシュで向かった先は男子トイレ。一番奥の個室のドアを荒っぽく閉じ、便器に掛けてズボンを下ろす。
『ッは、ぁあっ』
大きく足を開き、オナニーおぼえたての猿みたいに股間をしごきまくる。まだ足りない、後ろにも欲しい。とはいえアナニ―の経験はない。俺も男の端くれ、ケツに指を突っ込むのはさすがに抵抗を感じる。瞼の裏に鮮烈なイメージが炸裂、俺よりひと回りでかくてゴツい手がぶっとい肉棒をしごきまくる。
『ふッ、ふッ、ふッ』
キツく目を瞑る。自然とリズムが同期して快感が倍増する。
何やってんだ……惨めさと恥ずかしさでじんわり泣けてきた。授業をサボって、トイレの個室で。クラスメイトにバレたら生きてけねえ。仕方ない、こうでもしなきゃムラムラしすぎて狂っちまいそうなんだ……
『あっ、ンあっ、ふぁああっ、や、止まンねっ、ぁあっ』
『気持ちええ?』
『ッ!?』
口の端から涎をたらし、大股開きで竿をおっ勃てたまま振り仰ぐ。茶倉が個室の上から覗いてた。自慰に夢中で気付かなかった。
『おまっ、なん、授業中』
ショックで絶句する俺に対し、茶倉は右手に預けた煙草をちょいと掲げてみせた。サボって喫ってたらしい。
『なんやえらいエロい声するなー、思て覗いてみたら』
『頼む他のヤツには黙っててくれ!』
『お前が男子トイレで股おっぴろげてオナニー狂っとること?』
茶倉が意地悪くニヤニヤする。一方こっちは黙っててくれるならトイレのタイルに土下座する覚悟だった。
『俺っ、の、体おかしいんだ……ホントはホントにこんな事したくねえのに、こないだから毎晩金縛りにあって、変な夢見まくって……』
『どんな夢?』
苦しい言い訳に食い付いてきた。まさか夢ん中で影にヤられてるとも言えずごにょごにょする。
『夜になるたびでっかい黒い影がやってきて、その、俺のカラダで色々するんだよ……されてる最中に変な映像も見える、別の部屋の。ラブホみてえな』
茶倉が一瞬真顔になり、ズボンの尻ポケットをごそごそする。続いて数珠が投げ込まれた。
『巻いとけ。ちょっとはマシになるで』
『待っ』
数珠を持ち歩いてる高校生に初めて出会った。俺の制止を振り切ってさっさと退散する茶倉。半脱ぎのズボンに手をかけてドアを開ければ、既にトイレからいなくなっていた。
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