ただひと夏の打上花火

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 パーン、パチパチ。  乾いた音が空気を割った。  目の端にちらちらと光るものが映った。  花火だ。  ドーン。パン、パン。  花火の音が胸に重く響いた。ぱっと花開くと周囲にも光が滲み、真っ暗闇に薄雲が一瞬浮かび上がった。 「花火だ」  ミサキが歓声を上げた。 「きれいだね」  シオリも呟いた。  赤、青、黄、緑と次々に彩り豊かな花が咲く。かと思えばすぐにふわりと散る。  周囲の人々も、きれい、眩しいなどと口々に零している。  パーン、パパパン、パン、パン、と打ち上げ花火は鳴り止まない。一秒たりとも、まばたきすらもったいないほどきれいな花火だ。  一説によると、花火とは亡くなった人、つまり空にいる人に供える花という意味から、花の火と書いて『花火』というらしい。いつだったかテレビで見た情報がよぎった。  目の奥に刺さる光。一瞬だが夜空を照らし、そのたびに雲をくっきりと映し出す。何度も何度も、上がっては光り、光っては消える。  夜の帳に縫い付けられることなく、すぐにぱらぱらと落ちてしまう花火。その儚ささえも、空にいる人たちのイメージと容易に結びついた。  パチパチ、パチ、と最後はしぼんでいき、花火の打ち上げが終わった。  ふーっと長い息を吐いた。ここでようやく、息をのんで花火を見守っていたことに気づいた。  耳の中ではまだ花火の弾ける音が鳴っている。夜空に白い残像が見えている。  綺麗だなんて陳腐な言葉かもしれないけれど、それくらいしか浮かばなかった。  息を吸って吐いてを繰り返す。まだ心臓が高鳴っている。  真っ暗な宙をじっと見つめた。もしかしたら、まだ何か上がるかもしれない。期待を込めて見ていたが、夜空は無言を貫いている。  ぽつりぽつりと、周囲の人々の話し声が戻ってきた。花火きれいだったね、とか、これからどうする、などの言葉が聞こえ、シオリも現実に引き戻された。  安堵の息を吐く。隣を見ると、いつの間にかミサキがいなくなっていた。 「あれ? ミサキ? はぐれちゃった? うーん。先に帰ったのかな?」  こんなところでせっかちな彼女の性格が発揮されたか、と苦笑した。  シオリは口元に手を当てると、空に向かって呟いた。 「また来年も会おうね、『みんなのヒーロー』ミサキ」
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