3人が本棚に入れています
本棚に追加
パーン、パチパチ。
乾いた音が空気を割った。
目の端にちらちらと光るものが映った。
花火だ。
ドーン。パン、パン。
花火の音が胸に重く響いた。ぱっと花開くと周囲にも光が滲み、真っ暗闇に薄雲が一瞬浮かび上がった。
「花火だ」
ミサキが歓声を上げた。
「きれいだね」
シオリも呟いた。
赤、青、黄、緑と次々に彩り豊かな花が咲く。かと思えばすぐにふわりと散る。
周囲の人々も、きれい、眩しいなどと口々に零している。
パーン、パパパン、パン、パン、と打ち上げ花火は鳴り止まない。一秒たりとも、まばたきすらもったいないほどきれいな花火だ。
一説によると、花火とは亡くなった人、つまり空にいる人に供える花という意味から、花の火と書いて『花火』というらしい。いつだったかテレビで見た情報がよぎった。
目の奥に刺さる光。一瞬だが夜空を照らし、そのたびに雲をくっきりと映し出す。何度も何度も、上がっては光り、光っては消える。
夜の帳に縫い付けられることなく、すぐにぱらぱらと落ちてしまう花火。その儚ささえも、空にいる人たちのイメージと容易に結びついた。
パチパチ、パチ、と最後はしぼんでいき、花火の打ち上げが終わった。
ふーっと長い息を吐いた。ここでようやく、息をのんで花火を見守っていたことに気づいた。
耳の中ではまだ花火の弾ける音が鳴っている。夜空に白い残像が見えている。
綺麗だなんて陳腐な言葉かもしれないけれど、それくらいしか浮かばなかった。
息を吸って吐いてを繰り返す。まだ心臓が高鳴っている。
真っ暗な宙をじっと見つめた。もしかしたら、まだ何か上がるかもしれない。期待を込めて見ていたが、夜空は無言を貫いている。
ぽつりぽつりと、周囲の人々の話し声が戻ってきた。花火きれいだったね、とか、これからどうする、などの言葉が聞こえ、シオリも現実に引き戻された。
安堵の息を吐く。隣を見ると、いつの間にかミサキがいなくなっていた。
「あれ? ミサキ? はぐれちゃった? うーん。先に帰ったのかな?」
こんなところでせっかちな彼女の性格が発揮されたか、と苦笑した。
シオリは口元に手を当てると、空に向かって呟いた。
「また来年も会おうね、『みんなのヒーロー』ミサキ」
最初のコメントを投稿しよう!