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無論、そんな事くらいで行動を制限出来得る相手でないのは痛い程理解っているのだが、それでもディニテが待つ姿勢を見せるのに、何やらオフィーリアは迷っているようだった。
勢い良く止めた割には、次に発する言葉をどうするかと逡巡しているのかと、その場にいるディニテ以外の全員が、首を傾げる。
それには痺れを切らしたのか、とうとう自ら折れる姿勢を見せたディニテが、肩越しにオフィーリアを見詰め、低い声音で放つ。
「……おい。きちんと言わないと、私はこのまま貴様の手を振り解いて、あの餓鬼をシバき倒しに行くぞ」
「……理解りました……! 俺が付き合いますさかい! くれぐれも他署員に迷惑かけんとって下さい!」
そんな不穏な台詞を合図にして、やはり束の間躊躇していたオフィーリアだったが、やがてすぐ、決心したように顔を上げ、半ばやけくそといった感じで言い放つ。
それでディニテが、してやったりとばかりににやりと笑う。
どうやらオフィーリアの性格をきちんと把握した上で、どのように行動すれば挑発に乗ってくれるのか、全て計算しての言動であったらしい。
いつもは逆の立場にいるオフィーリアも、ディニテを相手に手の平の上で転がされているが如く、まるで良いように扱われている。
長い付き合いのシェイカーも、そんなオフィーリアの姿を一度も見た事がなかったため、結局止める間もなく二人が手合わせするのが決定してしまった。
「ほら、腹黒ドクターよ。フィー坊の決心が鈍らぬ内に、さっさと鍛練場かどこかに案内しろ」
がしっとばかりに、逃げられないようオフィーリアの腕を掴んだディニテが、嬉々としてイグレシオン署にある道場へと案内させるのだった。
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