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ーーここはイグレシオン。そう大都会でもなく、だからといって、ド田舎でもない。
よくあるような、特に大事件も起こらない、比較的長閑な街並みが特徴の、実に平和な場所である。
そんなイグレシオンに佇む、何だか場違いな所轄署がある。
イグレシオン署陰契課。世間からは吸血鬼と呼ばれ、恐れられる“昏きもの”を主に雇い、人間も入り交じって働く。
そんな、人間が犯す犯罪専門ではない、何か超常現象とか、“昏きもの”が起こす事件や事故を取り締まるような、いわゆる一つの、対“昏きもの”用の警察署である。
イグレシオン署で働く人々は実に様々で、まさに出勤しようと街中を歩く者が一人ーー。
柔らかそうな金糸の髪を揺らし、肩にかかる程度の長さまで伸びたのを首元で無造作に纏めた青年だ。
ダークグレーのスーツ上下にブルーのネクタイを締め、シャツはライトブルーでシンプルに着こなしている。
青年の名は、シェイカー=オフ=エディと言い、これでもイグレシオン署陰契課では、課長補佐として働く立派な刑事である。
そんなシェイカーが街中を歩いていると、ふと見知った相手を視界の端に捉えた気がして、紺碧と呼んでも相応しい、青い瞳をある一点へと向けた。
「……あれは。あそこにいるのはまさか。ディニテ……殿?」
中央広場に建設された噴水の前に佇む者の瞳は眼鏡越しですら赤く光り、彼が“昏きもの”である事を示している。
それだけではなく、遠目にも分かる程、今日、彼の身嗜みは整っていた。
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