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いつもならばぼさぼさのままの蒼い髪は、少しばかりウェーブがかかった状態でまとめられ、前髪をいくらか遊ばせたカジュアルなもので。
更にスーツも、見るからに上質なのりの利いた、生地も明らかに高そうだと分かる、ブラックのスリーピースを着用している。
ネクタイは濃紺で、シャツは薄いピンクを選んでいるようだ。
そんなディニテが、目の前を行き交う人々に、興味もなさげに視線を送っている。
何か用事でもあったのかと、出勤途中であるのを忘れて思わず走り寄る。
「ディニテ殿……!」
名前を呼ばれ、さすがに気付いたようで“昏きもの”……ディニテが、シェイカーへと視線を集中させる。
「……ん? おぉ。誰かと思えば、腹黒ドクターかよ。私も大概、運が良いな」
にやりと笑う姿は様になっていて、それに少し見惚れそうになったシェイカーだったが、すぐに持ち直すと質問する。
「どうしてこのようなところに?」
「あぁ。少しばかり野暮用だ。貴様、出勤するのだろうが。丁度良いから私をそこまで案内しろ」
「え? イグレシオン署陰契課に御用なのですか?」
「で、なければ案内しろとは言わん」
よりによって陰契課に用件があるとは思ってもいなかった。
てっきりいつもの気紛れかと判断していたのだが、今回は身嗜みを整えて赴いている点から、どうやら本当に目的地であるようだ。
しかも、口調も普段皆の前で使うようなふざけたものでなく、初めから素を出しているところからして、何やら真面目な用件かと、隣立って歩き出しながらちらちらとディニテを見る。
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