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「……何だよ。視線が煩い」
ディニテが、心底鬱陶しそうに話しかけてくる。
「いや。このようなところに用件なんて、珍しいなぁと思いまして」
咄嗟に疑問点を挙げてみると、途端に面倒そうな表情を浮かべたディニテが、とてつもなく盛大なため息を吐いた。
街には朝独特の活気が溢れ、行き交う人々の表情も明るく、買い物をしているだけの主婦ですら幸せそうにしているのにーー。
それにも関わらず、ディニテはまるで、地の底を這うような低い声音を発する。
「貴様のとこの上司……、部長だったかに少し、苦言を呈しにな」
「ケーニヒ部長に苦言、ですか」
「曾孫がこないだきただろう」
「あ、はい」
「あれから大体の話を聞いた。……で、タイミング良くジョシュアからも相談を受けてな。私が言う用件とはつまり、フィー坊の事なのだが」
それでさすがのシェイカーも大体察した。
頷くと、ディニテが満足したように瞳を細めながら続ける。
「曾孫のアホが死ぬ程煩くてウザくてな。私としても本意ではないから、今日こさせてもらった」
「一体何のお話ですか?」
「曾孫はフィー坊に執着しているからな。あれなコンプレックスは、死んでも治らんな、多分」
つい最近目の当たりしたシャークとオフィーリアの手合わせは、それこそまさに殺し合いであった。
両者共に冷酷で、且つ非情で在ったと感じたのは、シェイカーの記憶にも新しい。
「コンプレックス、ですか」
「あのな。あれはコンプレックスの塊が生きてる。貴様もフィー坊からそう教わっただろうが」
確かにシェイカーも、オフィーリアからそういった話を聞いた事はあるのだが、傍目には完璧そうに見えるシャークが、実はコンプレックスの塊とはと、俄には信じ難いとも思っている。
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