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——【学生編】いつメンとTA——
「そういやさ、藤田が入学してすぐ男が好きってカミングアウトしてから半年経つけど、どんな感じよ彼氏の方は」
進学先の私立K大で出会った社、田中、集と肩を並べながら歩く藤田蒼は、後期一発目の授業場所に向かっている最中だった。
社がそう言うのも無理もないだろう。カミングアウトしたのは割と早かったが、それからというもの何も進展はない。——尤も、お互い様な気がするのは藤田だけではないだろう。
この四人の中で一番背丈のある田中と目が合う。
「……社こそどうなんだよ」
無口タイプが藤田の代弁をする形となって社にいう。
「んなもん! お前らといたら出会いなんかねぇっつの!」
「あ、決して他と交流してないわけじゃないからな! 俺は居心地が良くてここに留まってるだけだからな!」と社がいうと、藤田は思わず口から笑みが溢れた。
そして、また田中が代わりに「……藤田が彼氏できないのもそういう事だと思うぞ」と言ってくれる。
「んだよ、つまんねぇー」
「俺は社のツンデレ具合、好きだけど」
「おい、それは馬鹿にしてんだろ」
「うん」
「おい!?」
「……集、コイツらうるさいから、次のゼミでは離れて席取ろう」と田中が藤田と同じくらい華奢な集に声を掛ける。
田中の意に反して「このうるさい感じ、夏休み明けで久々だから聞いてられるなー」と返す集に、肯定も否定もできず無言で集の隣を歩く。
それを横目に、藤田は早速少人数用の狭い教室に入っていく。その後はぽつぽつと同級生が入室してくるが、十人程が集まったところで、藤田は驚愕した。
この事実を自身の中だけで留めておくには、とても驚きが大きい。誰かに共有して少しでも小さくしたかった。
隣の社に耳打ちする。「なぁ、俺……もしかしたら、お前らしか知り合いいないかも」。
入学してから、学部だけでなく学科でのレクリエーションを一週間程開いてもらっていたはずだ。無論、大学からの新しい生活様式に慣れるための手続きや説明が主な内容だが、他学年を含め、同じ学部学科の学生との交流が真の目的と言っていい。
しかし、その恩恵にあやかれていない藤田は絶句する。
「で、でも、俺がそうなんだから——」
藤田はどもる口元を制御できずにいると、端にいる集は既に別の同級生と会話している。
藤田は再度絶句した。
それから、社はいう。「四人でばっかつるんでるったって……全ての授業が被ってる訳じゃねぇんだしよ」。
集は同級生と打ち解けて談笑しているが、その隣で存在感を出す田中は一切会話に入らない。田中を背もたれのように凭れる集と、それを甘受する田中。
「残念だな。お前は俺らをあてにし過ぎたな」
社がこれみよがしに、近くにいる同級生に容易く話しかける。
この四人が定着してまだ半年。だが、そこには既に「当たり前」がある。
藤田たちは偶然入学後の説明会の席で、お隣さんだったから。たったこれだけの理由だったはずだ。
(教職課程の説明会だよな。多分、アレが俺らの最初で、あの人ともアレが最初)
短い回想を済ませると、タイミングよく駆け足で入室してくる一回りもお兄さん感を醸し出す男が、爽やかさで本鈴ギリギリの焦りを誤魔化していた。
「っ、ギリギリセーフ」
それに社が興奮気味で「近村先輩じゃないっすか!! え、もしかしてこのゼミの?」と馴れ馴れしく声を掛ける。
「そうだよ、僕、ここのTAになったんだ。ちょっとだけ有償だから君らの面倒見てやることにしたんだよ」
黒髪のツーブロックがやけに似合う男は、社を含め藤田たちも当然の如く、顔見知りだった。
何を隠そう、彼こそが藤田たち四人をここまで親しくさせた張本人である。
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