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竜ヶ崎も三浦も初めから隠していないので、藤田も容易に察することができたが、二人はアツアツの仲だ。どのくらいの付き合いかはまだ分からないが、夫婦のような信頼関係さえ窺える二人に憧憬の念を抱かずにはいられない。
「近村先輩は三浦君を本当に友達としか思ってないみたいですよ」
「わーってるよ、んなこと」
学生を選ぶ食堂にて、竜ヶ崎はそっぽを向きながらいった。「俺はもう暴れられねぇから、こうして陰湿にならざるを得ねぇんだよ」。
その言葉に真っ先に反応した三浦は、唇を噛んで、それから竜ヶ崎の頭を乱雑に掻き乱した。
「大丈夫! 元ヤンって知ってて絡んで来る大学生なんていないよ。むしろ、これからもキャリアを積んでいくことが俺らにできることだろ」
藤田の隣に座る近村は、頬杖をついてそれを見ている。何も聞かず、ただ、傍観して「いいなぁ」とだけ呟いた。
藤田も同じことを思った。二人の間には藤田や近村には知らない困難を乗り越え今がある。それを感じさせるほどに、彼らの間には確固たる絆が見えるのだ。
好き合うというよりは、愛し合う。この表現が一番しっくりくる二人。
学生の間でそのような関係を築き上げる二人に尊敬する最中、竜ヶ崎が「俺は既に内定貰ってるから、後はゆづが俺んとこに嫁ぐだけだぞ」とニヒルに笑む。
「何で俺が嫁なんだ」
「あ? 学部変更する話をしてた時に言ってたぞ(※1)」
「っ?! あれは言葉の綾じゃんか!」
「言ったことに変わりねぇよ」
「ちきしょー。嵌められたー!」
「違和感を感じなかったゆづが悪い。な、奥さん?」
(完全に二人の世界だな)
「おーい。シリアスな空気が終わったならそう言ってくれる? 僕ら空気読みすぎて、どこから割って入っていいのか分かんないんだけど」
慣れた調子で近村が二人の空気に切り込んだ。
「仕方ねぇだろ、一緒にいられる時間は限られてんだから」
「何言ってんだよ、同棲してるくせに」
「竜ヶ崎さんと三浦君って同棲してるんですか」
「まぁ幼馴染だし、不自然なことじゃないしね」
三浦がむくれた顔で藤田にいう。
しかし、そんな甘い雰囲気も束の間、三浦が時間を見て慌て出す。
「あ、ヤバ。次の授業始まる! シロ! 近村と喧嘩すんなよ! 俺がいない時にちょっとでも小競り合いしてみろ? 俺の知ってる範囲の位置情報を捉える機器全て握り潰すからな!」
「おい、何個知ってんだよ」
「さぁ? でも、今俺の居場所を特定するものは二つあることは把握してるけど? 今はこれを無効化されると困るんじゃない?」
「大人しく俺の言う通りにする方が賢明だと思うぞ」と三浦は颯爽と去って行った。
取り残された竜ヶ崎は臍を噬み、藤田に視線を移す。「近村をちゃんと頼むぞ」。
相槌のように二つ返事をしたが、藤田は思わず近村に耳打ちをした。「今時、ゼンリーとかで位置情報を共有できるアプリがあるのは知ってますけど、二つってことは……」。
「そういうことだろうね。まぁ、暴れらんない分、頭を使うようになったってことじゃない?」
(何で平然としてるんだ? 付き合うってことはここまでオープンにするもんなのか? 三浦君が全く動じてないし)
「モノを考える元ヤンってやることが違うよねぇ」
「……てめぇ。ゆづが去った途端これかよ」
「えー? なんだって? 僕の悪口言ったら三浦にチクるからね?」
ひたすら煽り倒す近村に、顳顬から額にかけて浮き出る竜ヶ崎の青筋は、強さの象徴であるかのようにぼっこりとしていて太い。
「あんまり俺を刺激しない方がいいんじゃねぇの? その左手——」
「おおーっと! 竜ヶ崎君? 口がお留守だよ?」
近村はフォークで刺した食堂のチキンを竜ヶ崎の口へ乱暴に詰め込んだ。そして、「僕、この事を三浦に相談してもいいんだよ? 僕だって直したいって思ってるからさぁ。二人きりの方が腹割って喋れるし、三浦に時間、とってもらおっかなぁ。ねぇ、彼氏さん、三浦を借りてもいい?」と忍び声で藤田の耳に入らないように話す。
「駄目なら、他言無用だよ」
にんまりする近村に、「ちょっと黒い近村先輩、初めて見た」と少しだけ興奮した。
※1:「イノセントキラー」スター特典『大学生編—プロローグ—』p 18参照
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