——【学生編】いつメンとTA——

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 初回のゼミは簡単な自己紹介で早めに授業が終わる。 「……一時間も時間が空いたな」  田中の一言で、四人は残り時間の潰し方を思案する。 「飯は食ったばっかだしなぁ。藤田、何かしたいこととかないの?」  社に意見を求められるが、これといってない。強いて言うなら、早速次回のゼミから発表が織り込まれたので、心の準備をしたい。「次のゼミで早速発表だから俺、その準備しようかな」。 「あ、だったら、近村先輩がまだいるんだし、聞きながら進めるのも悪くなくない?」 「……何だったら、俺の家近いし、俺ら四人で進める方がここでやるより楽しそう。……ちょうど、親からA5ランクの和牛が送られてるから、それも食いながら」 「え、何それ! ちょー魅力的じゃん!」  集よりも社が肉に食い付いた。それに釣られるように、集も食い付けば良かったのだろうが、当の本人はどうやら近村にアドバイスを貰った方が早いと言う。 「近村先輩に聞いた後、今日の夜は田中の家ですき焼きパーティーしようよ。合理的じゃない?」  「……」無言で考え込む田中。しかし、次いで藤田にアイコンタクトを送ってきた。  だがそれには、首を横に振るしかない。 (悪いな、田中。俺も近村先輩とは必要以上に関わりたくないが、肉に踊らされなかった集の勝ちだ) 「え、なになに?」 「近村先輩。授業の間はまだ教室にいてくれます?」  集が主体となって近村と次回の資料について打ち合わせをしていく。それはもう、無駄話など一切ない会議のようだった。ほとんど集が聞いてしまい、三人はそれを簡単にメモ取るだけ。  そして、話が終わると「ありがとうございました! これで今日、心置きなくA5ランクの和牛を楽しめます!」と正直に言い放った。 (……しっかり集も釣られてたけど、多分、田中の中では肉の効力は無かったことになってそうだな)  内心でA5ランクの肉と田中に合掌しておいた。——なんだかんだで藤田は資料作りのヒントが貰えて、田中との利害の一致はしないのだ。 「っとに、集はちゃっかりしてんだから。何だかんだ、この四人じゃ集が一番社交性高いもんな」 「えー? 俺の方が高いと思ったんすけど」 「社はねぇ……社交性というより、人懐こい! 可愛がられる性格してる!」  「でも、僕は藤田がミステリアスで、面白い奴だと思う」近村が藤田ににんまりと口角を上げる。 「僕の同級生の三浦とよく似てんだよ。雰囲気といい、見た目といい」 「それ、前にも言ってましたよね。一度でいいから会ってみたいんすけど」 「社の言う通り僕も会わせたいなとは思うんだけど、彼、去年学部変更して三年の今も前期後期フル単でギチギチなのよ」 「二年になってからそんな大胆な!」  社の驚嘆には藤田も同感である。 「だよねー。僕も感心してるとこなんだ。人間としての器もデカいし、本当、尊敬しちゃうくらいだよ」 「漢っすねぇ」  感激して幾秒も経たないうちに、社が気付く。「……雰囲気もコイツに似てんすか?」。  話を藤田へ戻した社に舌打ちをしそうになりながら、あくまで知らぬ存ぜぬを貫く。 「うん! 似てると思うよ。だって、藤田って優しそうじゃない?」 (優しそう……ね)  近村の声が急に遠くなり、社の声もボリュームダウンして聞こえる。 (俺の嫌いな言葉だ。——優しいなんて俺に言うな)  この半年、授業の合間にすれ違うだけだった先輩と後輩の間柄の癖に。  その後の近村の総評はほとんど記憶に残らなかった。
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