——類友——

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 三浦の調教師と見紛う程の手際の良さに、思わず三浦に見惚れてしまう。 「最初見た時から思ってたけど、やっぱり似てるよね」  近村の声色がやたら上がったと思えば、藤田の腕を掴んで隣の席に座らせ肩を抱く。ただ馴れ馴れしいのか打算的なのか、自慢気に話す近村の横顔を覗いても分からない。  「ちょ、近村先輩?」と上擦った声を出す藤田を気に留めることなく、近村は続けた。 「この可愛い感じとか、ちょっとツンデレっぽいとことかさ。でも、藤田と三浦が決定的に違うのは、やっぱり——そこのデカイのを飼い慣らす器量かな」  と言ったところで、再度竜ヶ崎は眼鏡の奥から近村を睨め付けた。「あぁ? お前、マジでさっきから俺に突っ掛かり過ぎじゃね」。 「じゃあ、出会い頭の失礼発言、藤田に謝って」 「……」 「シロ。ここは謝ろ。シロだって分かるでしょ。会わせろって真っ先に言ったのはシロなんだから」 「……」  三浦に促され、ぐうの音も出ない竜ヶ崎は息を吐いた。「すまねぇ」。  藤田へ視線を向けられ、すぐに頭を下げる竜ヶ崎。 「近村がゆづの代わりを見つけたのかと思って、ちょっとだけイラついた」 「ちょっとじゃないでしょ」  近村が余計な油を注いだことで、さらに近村と竜ヶ崎は静かに歪み合う。  藤田が謝罪された気分になる前から腰にも手を回す近村は、目の前の一触即発ともとれる雰囲気についていけなかった。 「近村先輩っ、もう俺気にしてないんで、大丈夫、です!」  藤田が必死に近村に訴えかけると、近村はその声を聞いてより一層腰に回した手でさらに自身へ引き寄せた。 (っ何で?!)  すぐ隣で慌てふためく藤田を余所に「ここまで見れば、三浦とこの子を重ねてないって分かってもらえると思ったんだけど」と竜ヶ崎へ刺々しくいう。 「っ、紛らわしいんだよクソが」 「ふぅ……しょうがないじゃん。きっかけは三浦に似てるなぁと思ったから目についただけだし」  一気に緊張の糸が途切れる感じがした。 「三浦に似ているけど、僕にとってはこの子の方が……」  急に語気が小さくなる近村。それを見た三浦が「ここまで見たら近村に何の思惑もないって分かったんじゃない?」と竜ヶ崎の頭を撫でながら宥める。 「……もしかして、いつも行かない食堂(ココ)に指定してきたのはこのためか」 「そうだよ。藤田はまだ一年生だから人の目につくのは嫌がるだろうと思って。三浦が学部変更してから前より狭量になったんじゃない? 竜ヶ崎」 「……」 「シロってば、俺の授業が多くて一緒にいる時間が少ない! って最近ご立腹でさぁ。多分そのフラストレーションもあるかも。マジでゴメン。蒼君も、初っ端からこんなガン飛ばす元ヤン連れてきてゴメンね! 怖かったよな」  「以前は塾講師やってて協調性を覚えてたんだけど、辞めた途端こんな感じで敵意剥き出しでさ」と三浦は青息吐息をこぼした。 「……ゆづ、次の授業まであと三十分あるな」 「……へ?」 「俺らはこれで失礼する」  不意に立ち上がった竜ヶ崎に三浦は徐々に青ざめる。藤田はその成り行きを茫然と眺めながら、小脇に抱えられる三浦の背中を見ていた。  すると、急に立ち止まってこちらに振り向く竜ヶ崎が「藤田、か。さっきは悪かった。そこの変態と上手くやれよ」と微笑を浮かべて颯爽と去って行った。 「最初の印象が最悪だっただけに、最後のアレ、キマってますね……」 「ちょっと?!」 「さっきまで怒涛だったんで、竜ヶ崎先輩? が立ち上がったとこからようやく落ち着いてですね。最後の去り際カッコ良かったです」 「僕、泣いて良いかな」  「僕は何だっていつも気付いてもらえない道ばかりを……」と悶々としていたが、三浦が残していった稲荷寿司を頬張り、悩まし気な表情から後れ毛をピンと立てている気がした。
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