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「弁護士? えっと……」 「社長に頼まれました」 「社長って、うちの会社の?」 「はい。実は私も社長にはお世話になったんですよ」  村澤も親から虐待を受け施設で育ったと話してくれた。施設を出て社長の会社に入った。元々勉強が好きだった村澤はお金を貯めて上の学校に進もうと考えていた。それを知った社長は「頭柔らかいうちに勉強しろ」と言って予備校に通わせてくれた。 「会社の寮に入れてもらったので住む所や食事の心配もしなくてすみました。仕事も事務所で電話番させてもらっていました。電話の殆どが社長の携帯にかかってくるので私の仕事は殆どなくてね。ずっと勉強させてもらってました。だから恩返ししなきゃって必死で勉強しました。今は会社の顧問弁護士をやらせてもらっています。社長に足を向けて寝られません」  貴博の他にも同じ境遇の従業員が何人かいるのは知っていた。そんな社長に憧れ、感謝し、みんな一生懸命働いていた。 「会社の顧問弁護士の他に、私は児童福祉専門の仕事をさせて貰っています」 「児童福祉専門?」 「そう。私たちみたいに辛い思いをしている子どもたちを助ける仕事です。それが私の使命だと思っています」  他のどの弁護士よりも、大人よりも、子どもの辛さを知っている。だから自分がやるべきだと精力的に動いているという。
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