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 自分にしかできない方法ーー。貴博は考え続けた。確かにこんな方法は効率が悪い。たまたま帰り道にキキの家があったからキキを助ける事ができた。しかし自分の知らない所でも辛い思いをしている子どもがいるはずだ。そんな子どもたちを見つけたとして、全員連れて帰れるだろうか。自分1人で養えるのだろうか。  中々答えは見つからなかった。しかし時間だけはある。  貴博はクレヨンとスケッチブックを村澤に頼んだ。差し入れられた新品のスケッチブックに貴博はクレヨンを走らせた。  窓が大きく開かれた家の前に立つ笑顔の少女が2人。小さい方の少女の横に"喜々(キキ)"と書いた。次から次へと喜びが訪れるようにと。そして背の高い方の少女の横には"世名(ヨナ)"と書いた。家から出て世の中に名前を知ってもらおう、そう願って。  貴博は窓のない部屋で毎日窓の絵を描き続けた。大きく開かれた窓からは真っ青な空が見えた。爽やかな風がカーテンを揺らしていた。    彼女たちの、そして全ての大人たちの心の窓を開けさせるにはどうしたらいいのだろうか。開けたくなる窓とはどんな窓か。  貴博は描いた。大きな窓、カラフルな窓、ハートの窓、星型の窓。住んでいる人もワクワクする、通行人も思わず足を止める窓。どんな人が住んでいるのだろうと想像させる窓。そこから交流が生まれる窓。  窓だ、自分にしかできないことは窓を作ることだ。
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