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 仕事が終わりアパートへ戻る途中にキキの家はあった。駐車場には軽の新車とピンクの三輪車が置いてあった。    仕事柄気になった家はつい見てしまう。真っ白な壁に緑の屋根が映えていた。窓も屋根と同じ色の緑のサッシ。これは二重サッシだ。見栄えも機能も充実している。しかし花がない。庭にも玄関にも植物は植えられていなかった。せっかくの庭は草だらけだ。子どもがいるようだが庭で遊ばないのだろうか。母親は洗濯物を干したりしないのだろうか。そんな事をぼんやりと考えていた時だった。  2階の窓のカーテンが突然開いた。女の子が一気に開けたのだ。必死の形相が下からでも分かった。女の子は何か叫んでいるが二重サッシで防音の効いた窓から声は聞こえない。女の子は急に上を向いた。良く見ると大きな手が女の子の髪の毛を強く引っ張っていた。女の子は口を大きく開けカーテンを掴む。次の瞬間突然窓が開けられた。 「逃げたきゃ逃げろ。ほら、さっさと飛び降りろ、ほらっ!」  女の子の上半身が窓から押し出された。女の子は「ごめんなさいごめんなさい」と泣き叫んでいた。  貴博が呆然と見ていると再び髪を掴まれ女の子は部屋の中へ引き戻された。すぐに窓は閉められカーテンも引かれた。  心臓が痛いほど強く打ち付けた。全身から血の気が引き凍りついた。体が硬直する。  フラッシュバックーー。貴博も子どもの頃同じ目にあっていた。
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