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 ワンルームのアパートで2人は身を寄せ合って暮らした。施設で年下の子の面倒を見たことのある貴博は子どもの扱いには慣れていた。おもちゃも絵本も無い部屋では退屈だろうと会社から裏の白い広告をたくさんもらってきた。100円ショップでクレヨンを買ってきた。  キキは表情には出さないがきっと嬉しかったのだろう。毎日飽きもせず絵を描いた。女の子の絵は多分自分なのだろう。花や動物の絵もあった。ただどれもモノクローム。せっかく買ってきたクレヨンも黒ばかりが短くなっていた。  そんなキキとの生活がしばらく続いた。最初は殆ど話さなかったキキも段々話してくれるようになった。 「そろそろ名前を教えてくれてもいいんじゃないかな? お兄さんは貴博っていうんだよ。君は?」 「……キキ……」 「キキか。可愛い名前だね。書ける?」  貴博の問いかけにキキは困った顔をした。多分5歳くらいだろうか。そろそろ小学校入学のために字を覚え始める頃だ。親に絵本を読んで貰って自然に覚える子も多いだろう。しかしキキは親からは何の教育も受けず、絵本さえ読んでもらっていないようだった。
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