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あの日飲んだ冷めた紅茶の味が、意識上の口内を通り過ぎて、喉の奥へと落ちる。
あの頃は十二歳くらいだったが、これからは自分で紅茶を淹れなくてはいけないということは理解できた。
つまり、すべて自分でやらなければならないということだ。
(『あの人』がいなくなってからは紅茶を淹れて、書斎をあさり、内容の薄い日記をつけて眠るだけの日々を続けた)
今思い出しても十代の少年らしからぬ、ひどく怠惰な生活だ。
けれどそのおかげで、悲しみに打ちひしがれることも、ひどく荒れることもなく、己の激情をやり過ごせた。
そして。
(……出会いは宝石の赤い輝きとともに、突然にやってきた)
三ツ森ツカサ―――現在の同居人。
艶のある黒髪と、悲しみを湛えた瑠璃色の瞳が印象的な、伏し目がちの大人しい男の子だった。
自分の名前すらはっきり言えない、とても内気な子だった。
そんなツカサとこの世界で一緒に暮らし始めてから九年ほどが経った。ツカサはあと一ヶ月で十六歳になろうとしている。
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