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見藤祐護の大切な人
瞼の裏の世界は暗かった。
そしてその世界に立つ自分―――見藤祐護の身体を、自分の意識が俯瞰していた。
胡桃色の髪は前髪だけが短く、『あの人』が綺麗だと褒めてくれた常磐色の瞳は瞼の裏に隠れている。
やや細い垂れ目で幼く見られるわりに背は高めで、ごつくはないがやや筋肉質。客観すると全体の形として均整はとれている。美形だと言われることもそれなりにあった。
しかしどこかアンバランスな外見だと、自分では思う。
そんな身体が無地のシャツを着て、紺色のジーンズをはいて、首には不似合いなかわいらしいデザインの鍵を下げている。
(自分が死んだら、こんな感じで外から自分を見ることになるんだろうか)
くだらないことを考えながら自分を外側から観察していると、どこからか紅茶の匂いが漂ってきて、紅茶にまつわる記憶が呼び覚まされる。
もう十年も前のことだが、部屋の湿度も星の明滅も明確に思い出せてしまう。
そんな、忘れようがない記憶だった。
(『あの人』が俺に残したのは『冷めた紅茶』と『鍵』だけだった)
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