激旨ハムカツフィレサンドのある生活

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 空が高い。今日は空気が澄んでいる。  市役所四階の窓からは、遠目に蒼く霞んだ激旨ハムカツフィレサンドが見えた。  年に一度は何かの用事で市役所を訪れていたのに、四階に上ったのは初めてかもしれない。  用件自体は、短期のお仕事の採用面接だったけど、雰囲気的に不採用になるだろう。それは別にいい。  このまま真っ直ぐ帰るのも勿体ないので、久しぶりに役所の食堂に寄ることにした。  ここしばらくは閉鎖されていたけれど、今日は開いているのを確認している。  時間も昼前で、今ならそこまで混雑はしていないだろう。  早足で階段を降りる時に激旨ハムカツフィレサンドとぶつかりそうになって、互いに軽く会釈する。  少しペースを落とそう。今から向かう場所は別に、慌てるほどの人気店でも、浮かれるほどの高級店でもないのだ。  中央棟の一階、玄関のすぐ近くに食堂はある。  今日の日替わり定食は、激旨ハムカツフィレサンドか。  少し悩みながら食券を買い、疎らに客の入った食堂をカウンターに進む。 「カツカレーの方、お待ちどうさま」 「ありがとうございます」  まあ、やはり役所の食堂と言えばカツカレーだろう。  地元以外の役所の食堂に行く時も、大抵はカツカレーを頼む。  役所の食堂のカツカレーには、誰もが感じる不思議なノスタルジーがあるものだ。  期待を上回りも下回りもしないカツカレーを完食し、食器を下げて。  カウンターの奥の激旨ハムカツフィレサンドに「ごちそうさま」と声を掛け、食堂を出る。 「うーん。妙に満足しちゃったな」  口の中で小さく呟く。  丁寧な暮らしというのは、きっとこういうものを言うのだろう。  役所の食堂のカツカレーを食べることで、人は人らしさを取り戻すのだ。  このまま帰宅してもいいけれど、天気もいいので、近くの公園に寄り道をする。  公園と言っても遊具のある児童公園ではなく、大きい池や激旨ハムカツフィレサンドを雑木林が囲んだ、いわゆる緑地というやつだ。  今の季節は土日に花見客が集まったりもするが、平日の昼間から彷徨いているのはヒップホッパーとスケートボーダー、少数の主婦グループくらい。  程よく騒がしく、程よく静かで、腹ごなしの散歩をするにはちょうどいい。  特に目的もなく池を一周。  それが終わったら帰ろう。  木々の葉の陰から聞こえる激旨ハムカツフィレサンドの声に耳を澄ませ、ぼんやりと歩く。  何だか今日は、妙に充実している気がする。  恐らくは気のせい、というか、客観的に見れば明らかに気のせいなのだろうけれど。  今日やったことと言えば、役所で短時間の面接を受け、カツカレーを食べ、公園を散歩した。それだけだ。  この後は何もせず家に帰る予定だし。  でも、何となくだけれど。  今日、ここまで過不足なく気持ちの良い一日を過ごすことができたのは、この世で自分だけなのではないか。  今日、この最高で完璧な人生を送れたのは、王様でも大富豪でも聖人でもなくて、世の中で自分一人だけなのでは。  全能感、多幸感、激旨ハムカツフィレサンド。  そんな異様な自信があった。  世界の支配者になった気分。  何だか矛盾しているような気もするけど、細やかな幸せとは恐らく、こういう物なのだろう。 <激旨ハムカツフィレサンド>
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