超金持ちのお嬢様と超貧乏な超幼馴染に挟まれるメトロノームにも似たシーソーゲーム

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1 アン子はいつも通り縄張りという名のスタートラインに、やや猫背で立っていた。 ケータイをいじっているわけでも、化粧直しをしてるわけでもない。 そもそもアン子はケータイを持ってない。化粧もしない。 ただ俺の事をひたずら、ずーっと待っているわけだ。 「オス」 と呼びかけると、黙って俺の袖を少し引っ張って歩くのが俺らの通学の中継地点だ。 俺とアン子は幼稚園から小、中、高校生までずーっとクラスも一緒だった超幼馴染。 神のサイコロは連続的な数字でも叩き出す事ができるのかって感じだ。 クラスも一緒なんだぜ? ちょっと驚いただろ?もし俺が志望大学を言おうものなら、鼻息荒く受験を頑張り、俺の大学に着いてくるはずだ。 まぁまだ高1だからそんなの考えてもいないけどな。 そんなわけで2人、今日もいつも通りの朝、そして道─── だったんだが。 校門のそばで男に囲まれた女が何やら騒いでいる。 喧噪を通り抜けようと集団に混じると、囲んでいたマイルドヤンキー風な男がこちらを振り返り、怒鳴り散らかしてきた。 「なんだぁおめぇ⁉」 「お前こそ誰よ‼」 ヤンキー達に囲まれた女が負けじと叫ぶ。え、同じ制服なのに、金髪…だと? こういうやからは脳が足りないので交渉なんて無理だ。俺に吹っ掛けてきた奴の襟首をしっかり持ち、得意の一本背負いをかました。奴は受け身も知らないので、モロに背中にダメージが入ったようだ。ヤンキー共は3人いて、1人はこいつ、1人は逃亡し、残りの1人は金髪の彼女にボコボコにされ、伸びていた。 性格がコロッと変わった金髪は、 「すごーい‼あんな技どうやったらできるのぉ⁉」 「ウチの家が空手道場なんだ」 金髪娘は近づくといい匂いがした。シャンプーの匂いか?まさか香水なんて付けてないよな…。アン子は俺の袖をまたつかみ、茫然と後ろに立っていた。 「目の色が違うじゃん!カラコンで変えてるの?」 「いや天然だ」 この目のせいで、俺が今までどれだけ苦境に立たされた事か…いや今は語るまい。 「すご~い!クール!かっこいいね!」 金髪の目がハートとジュエルに変わっていく。 金髪ははしゃいでたが、後ろにいたアン子を見て笑顔が消え、死んだ魚のような目をした。 「そんで、後ろの座敷童(ざしきわらし)みたいなの誰?まさか彼女とか言わないわよね…」 アン子は完全に俺の背中に張り付いて隠れた。怖かったらしい。 「ああ、こいつはアン子…って呼んでるが本名は『亜暗(ああん)』っていうんだ。こんな名前つけた親父に蹴りかましたいが、すでにもうこの世にいないんだ」 「ふーん。で?君の名前は?」 「俺は響介(きょうすけ)」 「私は学校イチのアイドル金城すみれよ!金髪を生徒会に認めさせた、この実力派アイドルッ‼」 初めて見る不思議なポーズをしながら咆哮する金髪に対し、 「お、おう…」 としか反応出来なかった。続けて金髪娘は、 「今日からすみれと響介(きょうすけ)は特別な関係になりまーす!どや座敷童(ざしきわらし)?」 アン子はただただ震えながら、今日初めての言葉を発した。 「ざしきわらしって何なのん…?」 「ぐぐれ!ぐぐれよ‼」 「ぐ…ぐぐるって何なん…?」 呆れ顔でツンとしたすみれは、もういいわという顔で、 「じゃあまたねオッドアイ君v」 と言って投げキッスをした。短めのスカートが揺れる。アイドル級でないと投げキッスはできないであろう今日日(きょうび)。 だめだ。何かまたおかしい事が起こり始めている。幼稚園から今まで続いて来た頭の中の暗雲が脳をかき乱す。この状態は…。 ぇ 幼稚園から小、中、高校まで毎回起こるこの想いは、メトロノームにも似たシーソーゲーム。 そこにはずっとアン子がいた。 これからの色んな事を思うと、赤い方の眼が疼き、コメカミ辺りから頭痛がしてきた。 今日は朝から気分が良くなかった。そう、あの件だ。決して俺がモテモテだからじゃあない。寄ってくるヤツはオッドアイに惹かれるだけなのだった。 授業が耳にはいってこない。頭痛はよく起こる。しかしアン子が頭痛薬を常備していたのでその度に飲んでいた。 そんなこんなでやっと昼になった。アン子は早く屋上へ行こうとばかりに袖を引っ張る。 毎日、屋上でアン子が作ってくれた弁当をたべるのだが…今日のはパンチが効いている。 4分の3がソーセージと肉団子、4分の1がご飯、それと申し訳程度のたくあん。 俺が焦っていると、屋上のドアが激しく開いた。例の『すみれ』とか言ってた金髪娘だ。 「オッドアイ君ー!やっと見つけたよ」 駆けつけた金髪に俺が、じと目でつぶやく。 「なんでここが分かった?」 「君のクラスメイトに聞いたわけ‼」また謎のポーズを決めている。 しかし謎のポーズより、手にもってる風呂敷の方に目がいってしまう。 「これ、1流の料理人とビデオチャットして作った、超三段御前!」 風呂敷を取るとやたら分厚い3段重が出てきた。 「もちろん食べてくれるわよね?」 アン子は俺の袖を強めに引っ張りながらお弁当を差し出してくる。 すみれの豪華弁当を食べるか、アン子のいつも通りの弁当を食べるか。 悩み抜いて、顔が真っ赤になり頭から湯気がでてしまい、思わず立ち上がって咆哮してしまう。 「あっはは!どっちの弁当も食べてやるよ!」 2人分の拍手に見送られ、とにかくフードファイターのように俺は食いまくった。 その結果─────────── 腹はパンパンになり、5時間と6時間目の記憶は飛び、放課後はトイレから出てこれなくなった。 すみれは完食したのに満足したのか次は1段にすることを約束し、アン子はトイレで心配そうに待っているのだった。 トイレで俺は色々考えた────── 朝飯は抜きで、屋上で毎日2つの弁当を平らげないといけない、多分夕食も抜きにしないとな…このどうしようもない気持ちはどういう解決へと結びつけられるのだろうか。 桜が散るころには抜本的改革をしなきゃな。 トイレから出てきた俺にアン子が反応し、袖を引っ張りながら帰路についた。 昼。相変わらず俺は学校の屋上で、弁当2つをがっついていた。 朝食と夕食を抜いてきたので、凄く美味かった。ペロリといけた。 すみれの弁当のクオリティーが高いのは確かに認めざるをえなかった。 しかし長年アン子の弁当に舌が慣れているのも事実。 甲乙つけがたいな… そう思いながら空の弁当箱を眺めてると、隣のすみれが 「ねぇ響介クン、『らぁいん』教えてよ!」 「はぁ?夜中寝てる時にメッセージ送ってくるんじゃないだろうな?」 「大丈夫だからv早く交換しよ!ね?」 アン子が胸元をみせながら近づいてくる。アン子は自分の弁当をモグモグしながら 「らぁいんって何なん?」 「えー!こいつスマホもってるくせに、らぁいん入れてないわけ~?」 俺がフォローする。 「アン子、スマホ持ってないんだ」 「『らぁめん』と違うん?」 「ちげーよ‼‼‼」 すみれは思わず立ち上がった。 「あーもうホントイラつくわーこの座敷童」 「まあそういう俺も、らぁいんはインストールしてないんだ。今からインストールするから待っててくれ」 そして、らぁいんの交換を無事すませると 「ふふ大収穫vまたねー」 上機嫌で屋上のドアへと消えていった。 「アン子、らぁいんはメッセージを交換したり無料通話したりもできるスマホアプリなんだ」 「そうなん⁉うちも使いたいん!」 「そうだなぁ、じゃあ1万8千円くらいのスマホ買って、低速SIM付けてアン子にあげよう」 「本当なん?最高なん‼」 珍しくクネクネ踊り出す、そんなアン子の家は貧しく父が消えて母と一緒に過ごしていた。だが家賃が無い事だけは救いだ。 俺は踊りをみながらつい笑ってしまう。 そんなアン子に、やはり安息感を感じてしまうのだった。 「ほら、SIM入りケータイ買ってきてやったぞ」 俺からの超スペシャルなアン子へのプレゼントだ。ちなみに俺も全く同じ機種で18000円だがキビキビ動いている。 「すごいのん‼」 「横にあるココを押すと電源が入るだろ、そしたら何でも使えるアプリをダウンロードできるぞ。最初はやっぱり『らぁいん』からだ。これで無料通話とメッセージ送れるな」 アン子はただただ不思議そうにケータイを見ている。 「あと自宅にwifiルータ。電源に入れるだけのヤツな。これで自宅では高速で動くぞ」 「よくわからないけど、革命なの‼」 またアン子は不思議な踊りを踊り始める。どうしてもこの踊りがツボにはいってしまう。 スマホはクセになりがちで、いきなり初めて渡してよかったのだろうかと悩ましい感覚におちいっていた時。 「らぁいん入れたの!」 素早い適応力。早速俺とアン子で連絡先を紐づける。そんな中丁度すみれからメッセージが来た。 (オッドアイ君、今どこ?) しょうもないメッセージである。俺は返した。 「アン子の自宅」 そう書くと、すみれからのメッセージが途絶えた。 「SIM代は俺がカネ出すから、普通の電話は極力さけてくれよ?」 「らぁいんバイトとか、らぁいん証券とか、色々あるのんな~」 「株の運用はお前じゃ無理だろ。バイトならいいかもしれないが…」 「ゲームまであるん!」 「やるのは自由だけど課金はしないでくれよ?俺がカネ払ってるんだからな」 「無料でやるの!」 こうしてアン子の初スマホ&無線wifiデビューは華々しく始まった。 アン子特製弁当も中学から高校まで毎日かなり食べてるから、そのお返しだ。 アン子が普通のJKになるための「お勉強」とでも言っておこう。 そうしてスマホの指導しているうちに時間も忘れるほど夢中になって、帰る頃にはすっかり夜になっていたので、ライトを付けて自転車で帰るのだった。 夜になって夕食は抜き、風呂に入って髪を乾かしていると、俺のスマホからピロン♪とメッセ―ジが届いた。 ケータイのアン子からの写真だ。暗闇の中、アン子がドアップで映っている。正直ぞくっと来た。何なんだこれは…カメラテストでもしてるんじゃなかろうか。 そしてらぁいん通話が来る。 「なんであんな写真送ってきたんだ?びっくりしたぞ正直」 「ちゃんとアン子映ってなかったん?」 「ドアップすぎだ!もうちょっとケータイを離して撮ってくれ」 また写真が送られてくる。今度は調子いいみたいだ。ホッと安堵する。 離れてそのままスマホにれていってくれ。頼むから。 アン子の家はローン完済済みなので、家賃はなかった。 「またどこかでスマホも講座したいから、今度ファミレスでもいこうぜ」 「ファミレス…」 貧乏なアン子は言った事がなかった。ネカフェも怖くて入れない。 「でも有難うなの!ハート無限大なのん!」 「もうちょっと落ち行け。な。」 「丁度すみれからメッセージだ」 (今後2人でデートしよv座敷童(ざしきわらし)は不可) やれやれまいったなぁ。 「すみれからなのん?」 アン子は不安そうに尋ねて来た。 「ああ…デートしてくれってさ」 「それは裏切り行為なん!許しがたい暴挙なん‼」 しかしすみれとショッピングしたりご飯たべたりすることを想像すると、悪くもない。 「アン子にもプレゼント上げるから、1回だけどうしても無理か?もちろん1番はアン子だし」 「プレゼンントもらえるん?」 「ああ!服とかコスメとか色々な!」 アン子はしばらく考えたあげく、 「キョースケとの仲は不動だと信じてるん。だからいってもいいのん」  ホッとした。すぐすみれにOKを送る。 最初のデート、どうなるかな~? 「いま超絶眠いんでアン子の部屋に泊ってもいい?」 「もちろんなん!」 そう言うとアン子は2階へ駆けていった。 アン子は2階で来客用の布団を用意して待っていた。 この子は一見怯えてるようで、とても気遣いの良い子だ。 「じゃあ俺もスマホいじりながら寝るわ。サンキュー」 「ユアウェルカムなの。おやすみ」 そうして、あっという間に朝になった。今日はすみれとデートの日だ。 何を着ていけば分からないのでとりあえずネクタイだけ外して、制服姿でいいかと俺は思った。 「朝ご飯、食べないのん…?」 今日は休みの日なので朝ごはん食べてもいいだろう。 「いただきますっ!」 ご飯とみそ汁、漬物と冷やっこ。シンプルだがこれが美味い。 「ごっそさん!」 そう言って玄関まで走った。心配そうに見つめるアン子だったが、 「大丈夫、何にもないよ。すみれと外歩いたり買い物したりするだけだから」 そういって俺は止めていた自転車を走らせた。 待ち合わせに行くと、すみれが帽子と綺麗なワンピース姿で、思わず見惚れてしまった。 「オッドアイ君、座敷童はいないわよね?」 「いないよ。」 「じゃあ行きましょ」 腕を組んで歩きだす。 「なんで制服なの?」 「そこは突っ込まないでくれ…」 彼女が気品あふれる口調で言った。 「今日はクレープが食べたいわ」 クレープか…周囲を見回しても見当たらない。その代わりケバブの露店があった。 「ケバブ屋があるから食おうぜ!」 「けば…なんですって?」 渡されたケバブは、すみれが見た事もないキャベツと肉が挟まっているパン?のようなもので、外側にソースがかかっている。 「これに激辛ソースかけるのがいいんだよな~」 すみれは一口頬張ってみた 「からぁーっ‼」 ケバブはすみれの手から滑らせて下に落っこちてしまった。 「もったいない!」 即、地面から拾って、 「はい!」 と手渡そうとしたが、 「いらないわよ、そんな辛いの‼」 「美味いのになぁ…」 俺がケバブを2つ食べていると、すみれはとある場所を指差し、 「あそこのショッピングモール行こうよ!」 そういうと組んでた腕を引っ張って走ると、ケバブを食べていた俺は息苦しくなりながら、モールに2人は消えていった。 その後ろに怪しい影をまといし者がいたが、2人は知るすべもなかった。 俺とすみれは腕組みしながらウィンドウショッピングを楽しんでいた。 どれも綺麗だが高価で、手が出ない品ばかりだった。俺はケバブの残りを腹に入れてから、 「すみれ、悪いけど俺の財布からは買えない物ばかりだぞ?」 「私はカードで支払いするからいいの。それよりケバブ代がまだだったわね。はい千円」 俺は素直に千円受け取った。 「ああこの服いいわぁ…」 一着にすみれが見惚れている。 「どう?私に似合うと思う?」 「ちょっと大人向けな服だけど、すみれなら似合うんじゃないかな」 「ホント?じゃあ買っちゃおうかしら。両親からちゃんと貰ったクレジットカードだから問題はないとは思うけど…」 「すみれのウチは金持ちなんだな」 「両親は財産を増やす目的でポートフォリオを組んで不労所得を得ているの」 「ポート…何?まあいいや買っちゃえば?」 そしてすみれはお店に入り、すぐ戻って来た。 「買っちゃった!あとで着てる所らぁいんで送るね!」 「おう」 「あとブランド物のバッグも欲しいのよねー。うん、バッグは重要。プリガリの明るい色のバッグが欲しいの」 「それいくらするんだ?」 「35万くらいかな」 さらっとすみれは言ったが、次元が違い過ぎる。35万あればエコバッグ買うぞ俺は。 「バッグはまた今度買ってくれ。あとプルガリのサイトもあるから、そこで買えばいい」 「そうね。でも実物見るのは大事よ」 まあ言いたい事は分かる。俺もネットのフリマサイトでパンツを買ったら、Mサイズで全然着れなかった苦い思い出がある。 「そろそろランチにしましょうか。プルガリ本店のランチコースにしましょう」 「いやいやいや…待ってくれ、俺は牛丼屋か日安屋でいいんだぞ?」 「さ、もうすぐだから行きましょう。でもドレスコードがあるから、ネクタイ買ってあげるね」 何だこの感じ。もう今日は朝から昼過ぎまで、白黒の輪が頭の中でぐるぐると回っている。 怪しい影も絶賛徘徊中。 こうしてすみれとのデートは続いてゆく。 俺とすみれは、プルガリのレストランで食事中だ。 コースなんだが、一口だけで終わってしまう料理ばっかり運んでくる。全然腹が満たされない。 「すみれ、いつもこんな場所で食事してるのか?」 「まぁ、気分転換に来る事がおおいわね。」 やっとメインディッシュがきた。ビーフステーキだ。思い切り口に運び、がっつく。 隣の貴婦人が俺を見て、まあなんという子でしょうと言わんばかりにハンカチで口をふさぐ。 肉を食い終わった時、入り口で何やらもめてる光景に目を配った。 「…お子様だけの来店はちょっと…」 「お子様じゃないん!高校生なの!」 近づいてみると、店員に吹っ掛けてるのはアン子だった! 「アン子、なんでここに…!」 「ずっとデート現場をついてきたの」 やれやれである。仕方がないので、すみれを呼んで店を出た。 「何でここに座敷童がいるわけ?」 すみれの態度が急変する。 「追いかけてたん。」 すみれはタクシーを呼んだ。 「あんたたちは恋人同士なわけ?今日のデートは最後でつまずいたわ。座敷童と一緒に帰ればいいじゃない」 そう言って、タクシーに乗り込み一人で行ってしまった。 「何で俺たちについて来たんだ?」 「不安だったん」 はぁ…とため息しか出なかった。 「俺らはタクシー代もないから、歩いて帰ろう」 俺とアン子は超幼馴染だ。そんなアン子を助けてあげなきゃと思い、親がやってる空手道場に入門したんだ。それはもう恋愛とはまた違った何かである。 「あそこの唐揚げ食べ放題の店に行くん!お金ならウチもってるん!」 唐揚げ食べ放題とは初めて見る店だ。ずいぶん唐揚げ1つに自信があるのだろう。 確かに魅力的だ。しかし、 「アン子、本当にお金あるのか?」 「ウチ、今バイトしてるん」 「マジでか!どこでだ」 「怖かったけどネットカフェ。コンビニは背が低すぎて断られたん!」 「よし、じゃあ唐揚げいこうか!」 そこで2人とも腹いっぱい唐揚げを食べた。 「やっぱりアン子を守らなきゃな!」 「守ってほしいの!」 それからは寄り道もせずに帰宅した。アン子がネカフェで働いている姿を想像して思わず笑ってしまった。 次の日の授業前の朝の時間。 俺はオッドアイというだけで、何人も女子たちにラァイン交換を迫られる。 今まで散々言われてきたが、はっきり言って人間は中身で勝負だろ!目の色違うだけで惚れられても困るので、あいにくすべてお断りする。 俺のラァインのリストはアン子と金髪にしか教えてない。よく見ると金髪から写真が来ていた。 無駄に広い金髪の部屋の写真が送られてきた。どう反応すれば良いか分からない写真だ。 豪華な夕食の食事を写してる写真もあった。だから何?としか思えない。 「キョースケ‼写メ見た⁉」 金髪が勢いよくクラスの中に入ってくる。 「見たよ」 「どうだった?」 「特に何も…」 「あんな広い部屋写してあげたんだから感謝しなさいよ!」 「望んだ写真じゃないからな…お前が何食べてるかも関心ないし」 アン子は黙って行く末をじっと眺めていた。 「まだまだ写メ送るからね!二度言うけど感謝しなさいよ!」 そう言い捨ててクラスから出ていった。周りの女子からは、学園内ナンバー1アイドルである金髪と仲むつまじいのかと思われているようだ。 「うちも写メ送ってるのん!」 アン子の写メは顔のアップだらけだが、生存確認として受け取っている。 次の日の朝。 授業前の朝から、すみれがクラスに現れて、写真を響介の机にバラまいた。 写真を見ると唐揚げを食べている2人の写真や、その他だ。 「これは…昨日の…」 アン子も見つめている。金髪は得意気に言った。 「昨日は座敷童と楽しくデートしてたみたいね」 「デートじゃない!…そういう感覚じゃない…」 「帽子も買ったりして、これがデートでなくて何なの?」 響介は弁解しようとしたが、金髪にさえぎられた。 「幼馴染はしょせん幼馴染。そこには母性本能はあっても、愛は無いわ」 痛いところを刺される。言葉を無くしてると、 「ま、あきらめてまたデートしましょうね。座敷童は死ね‼」 そう言うと教室のドアをピシャンと閉めた。 俺とアン子は茫然としていたが、アン子が少し笑いだす。 「フフ…そんなに嫉妬する事だったのん?」 「そうらしいな。写真写してるくらいだから」 「今度またもんじゃ焼きたべるん!餅チーズも餅牛肉もまだ食べて無かったの!」 「ああ。行こう」 そう言いながら考えた。幼馴染は恋愛感情に発展しないのだろうか。 幼稚園時代から、確かにお守をしている感覚で一緒にいたのは事実だ。そこには恋愛というにはまた違った感情が壁になっている。 そして1時間目の授業が始まった。 「オッドアイ君!またデートでもしましょうか」 「俺はアン子ともんじゃ焼き食べにいくんだぜ?」 「そんなしょうもない食べ物でなくて、もっと美味しいものを食べません?ふかひれスープとか北京ダックもいいわね」 休み時間に教室に入ってきた金髪は自信たっぷりの様子だ。 「そうだ!今度の土日を使って不二急ハイランドに行かないか?」 「え…ジェットコースターですの?」 「おや、学園イチのお嬢様には無理かなー?」 「べ、べつに平気ですけど?」 「じゃあ本当に行くか!幽霊屋敷が恐いんだこれが」 「失礼しますわ!」 金髪は青ざめて逃げ帰ってしまう。俺より机が1つ前にいたアン子も、 「不二急いきたいの!」 アン子は平気らしかった。 なんだか3人デートみたいな感じになるなぁ。まああの感じだと金髪は悩んでるはずだ。 その時はアン子と2人でジェットコースターに乗ろうじゃないか。 とりあえず今日はもんじゃ焼きを食べにいこう。 金髪はまた、黒いスーツの男を呼び出した。 「これから不二急ハイランドの下見にいくわよ。授業なんてサボってもリカバリできるから」 昼休みのお弁当タイムに今日は金髪は来なかった。まあアン子の弁当だけで問題無しだからいいけど。 こりゃよっぽどジェットコースターが苦手らしい。当日が楽しみだ。 今日も、昨日行ったもんじゃ焼き屋でたらふく食べていた。 「餅チーズが最高なの!」 90分食べ放題で、元をとるべく色んな種類を選んではがっついていた。 その間、会話もないので俺も無言でもんじゃを焼いていた。 そこへ金髪が店に乱入してきていた。店員や俺らもびっくりしている所に、 「不二急には絶対行かないわよ‼」 その一言だけを言いにこちらへ来たってわけか。ご苦労なことだ。 ひょっとして、今日授業をボイコットして不二急に行ってみたのもかもしれない。あの性格ならそうする可能性は高い。 アン子はアン子で夢中でもんじゃを焼いている。我関せずといった具合だ。足りないのか、2つ同時焼きしている。
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