超金持ちのお嬢様と超貧乏な超幼馴染に挟まれるメトロノームにも似たシーソーゲーム

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不二急の件はお釈迦になりそうだ。今考えると行く人数は奇数じゃないと寂しい思いをしてしまう(2人ペアの座席が多いので)。 となると、3人で行ける場所なんてどこにも… そんな時すみれから、らぁいんメッセージが届いた。 「グァムへ行きましょう。本当ならパラオかハワイに行きたいけど、金曜の夕方発ので月用朝に帰ってこなくちゃいけないから!」 ぼーっと見てみたが、アン子に聞いている。 「アンコ、グァムに行った事があるか?」 「ガムなら噛んだことあるのん」 南の島か…ひろい海で泳ぎたいな…しかし2人ともパスポートを持ってない。 「アン子、2人でパスポート取りに行こう」 「なんでなん?」 「日本から脱出できる証だ」 俺はラァインのメッセージで、 「俺とアン子がパスポート取るまで待ってくれ!」 と返信する。 3人で堪能する光の海!想像するだけで涼しい気分になる。 「何でパスポートひとつ持ってないわけ?」 金髪は授業前から神経質そうに言った。 「パスポートできるの期間は長いのよ!…まぁ待ってあげるけどね、一緒に行くんだし。」 「アン子もいくのん」 「お前は来なくてよし!」 そう言うとピリピリしながら教室を出ていった。 「アン子もパスポート取って、一緒に行こう。な?」 「南の島楽しみなん‼」 そう言って、いつもの謎ダンスをやっている。 先生がクラスに入ると、謎ダンスは強制終了する。 「担任が遅刻したので、1時間自習!」 生徒側は皆、歓喜に包まれた。 アンコが席を近づけさせて、 「キョースケ、お互いにクイズやるのん」 「クイズなら得意だぞ!俺からな!パンはパンでも食べられないパンはなーんだ?」 …アン子は思案しながら、 「すみれが作ったパン…」 何かリアルだな…。まあいい。 「アン子の番だぞ」 「クロロホルムで人を眠らせるのか可能か?」 よくハンカチにクロロホルムを使って女性の口をふさいでるシーンをいっぱい見てる。 「イエス!」 アン子は口を3のようにさせて、 「ぶっぶぅ~~!」 「なんでだよ!」 「相当量のクロロホルムを吸引させないとダメなの~はい次」 俺は悩んだあげく 「オッドアイよりも凄いのを何という?」 「ダイクロイック・アイ」 アン子は即答で答えた。こいつは並みじゃない。次はアン子の番だ。 「お酒に睡眠薬を一錠混ぜて昏睡させることはできるか?」 う~ん難しいけど、1錠くらいなら別にヘーキじゃないのか⁉ 「ノー!」 「ぶっぶううぅ~~3」 「えっ可能なのか?」 「ロヒプノール」だと10人中8~9人は意識を失うの」 「何でそんな事知ってるんだよ…」 「もう1回いくの!睡眠薬とお酒で自殺はできるか…」 「まてまてまってくれ‼なぜお前のクイズはそんなに暗いんだ!」 「キョースケは死にたくなったりしないのん?」 「俺はない!」 「ウチはあるの…父親が去っていった時とか…」 「忘れちまえそんな事!クズのヤツなんてよ!それより、今俺すげー腹減ってんだ。俺の弁当くれないか?」 「【バレ】ないのん?」 「一番後ろだからバレないさ。さぁ早く」 「ほれ、なの」 弁当をもらい、教科書で隠しながら食べる。 相変わらずミートボール祭りである。嫌いじゃないからいいけどさ。他の栄養取らないと倒れてしまいそうだ…。 5分で食べてから、容器をアン子に返す。 「ごっそさん」 アン子は無言で弁当箱をバッグに入れた。まんざらでもない顔をしている。 「パスポートは休日はやってないからなあ。学校に遅れてもいいから申請してこようか!」 「任せるの。なんなら今日行ってもいいの…」 「今日?」 聞き返した途端、アン子は眠ってしまっていた。バイトとかけ持ちで疲れているのだろう。 そして4時限目まで顔を上げる事はなかった。 「ランチタ~~イム!」 すみれはなぜかタンバリンを鳴らしながら俺の教室に入って来た。 「ふぅわふぅわふうううう!」 やたら上手にタンバリンを使い鳴らしている。 「今日のランチは、うなぎ!」 「ウナギ…だと…⁉」 「さあ座敷童はほっといて屋上行きましょ」 俺はなかなか起き上がらないアン子をちょっと気にしながら、すみれの意のままに屋上へと連れていかれた。 屋上。 すみれの弁当を開けると、なんと2匹分のウナギがドーンとその迫力を見せていた。 「海外産のもんじゃないわよ、国内産天然のものだから!」 うなぎをひと口食べてみる。 「うまい!美味すぎるぞこれ!」 「もちろんよ」 すみれも自分用の弁当を開けて食べ始めた程、俺はすでに半分を食っていた。 モグモグしながら訪ねてみる。 「お前は何で『俺』なんだ?イケメンならほかにもたくさんいるだろ?」 「そうね。強さ、優しさ、フェイス、全てを備えているからよ。バランスが最高なのよ。デブがオッドアイでもキツいだけよ」 「俺は幼稚園から、小、中、高校までこんな感じだった。そして勝者はいつだってアン子だったんだ。だが…」 金髪は黙って俺の言う事を聞いている。 「アン子とは何て言うか…好きを超越してるんだ…すみれは確かにすごい。だから高校生になった俺はメトロノームのように今、感情がフラフラしてる」 「まだ高1だし、最後は本能のままに決めなさい…」 そうしてウナギの場所だけを食べた弁当を置いてきぼりにして、 「グァム楽しみだわ」 そう言ってすみれは屋上ドアを開け、去っていった。 「この弁当の残り、俺がかたずけんのかよ!」 クラスに戻ると、アン子はまだ寝ていた。 さすがに気になり、揺すぶってみた。 「アン子、アン子!」 やっとアン子は反応した。 「うえあ…何時間寝てたの?」 「かなりの時間寝てたぞ」 「本当なん⁉」 「バイトで無理してるんじゃないのか?」 「…否めないの…」 「バイトのシフト、少し減らした方がいいぞ」 「…アドバイス感謝なん」 アン子はそう言うと、お昼終わりなのに弁当を食べ始めた。 「教科書で隠せよ」 黙々とミートボールを口に入れている。 何とか食べ終えたアン子は、またすぐ眠りに入ってしまった。今日はこりゃダメそうだ。だが最後の授業が終わるとすぐ目を覚まし、一緒に帰ったのであった。 アン子が働いてるネカフェを一度見てみたかった俺は、夜にその場所まで自転車をこいで偵察してみる事にした。 中に入ると、 「いらっしゃいませ~」 服装はズタパみたいだ。どうやらカウンターでは無いらしい。 俺は個室を選んで2階に移動したその時! アン子が部屋から出てきた。 「よおアン子」 「なっ…何なん⁉」 制服を着たアン子は貴重だ。レアだ。 「どんな事してるんだ?」 アン子がモジモジしながら言った。 「帰っていったお客の部屋をかたづける仕事なん」 「それって一番大変な仕事じゃん。分かった仕事を続けろ」 そう言って俺は1階フロアに足を運んだ。 「お帰りですか~」 裏からタバコくさいお姉ちゃんがやってきた。 「おい、亜暗(ああん)を仕事や色んな部分でわざと無理させたりしたら、どうなるか分かってんだろうな?」 そう言うと指をバキバキと鳴らす。 「はっハイ…!」 首もバキバキ鳴らすと、ネカフェを後にした。アン子の過去のいじめは少なくはなかった。その時は毎回、俺がそのつど盾になってきた。 これで少なくとも、いじめは起きないだろう。闇の中を自転車の光が煌々と流れていった。 俺とアン子は学校をさぼって、グァムに行くためのパスポートを作りに行っていた。 「アン子、パスポートに使う写真撮ったか?」 「まだなのん」 駅前に写真撮影のボックスを見つけたので、早速アン子の写真を撮った。 「ははっずいぶん固い表情だな」 「緊張したのん」 そして俺たちは無事パスポートを申請し、その帰り道。 「アン子、今月のバイト代いくらだった?」 「シフト減らしたから8万くらいなの」 「それでもいいな。俺もバイトするかなぁ」 「キョースケはガソリンスタンドが似合ってるの。今すぐ乙4取るの」 「乙4?資格か?」 「あ、でも18歳にならないと使えないから意味ないの」 「資格に興味ないなぁ俺は。乙4もってたとしても上がる時給は+100円くらいだろ」 でもガソリンスタンドは悪くない。今度面接に行ってみようか。 とにかくパスポート10年分取ったから、これで3人でグァムへ行ける。 アン子は…水着なんて持ってないだろうな。 「アン子は水着、もってるのか?」 「…1着だけ持ってるん」 「ほお…」 俺はトランクス型のを1つ持っていたっけ。 「とにかく腹減った。唐揚げ食いにいこうか」 「唐揚げ以外の選択肢ないのん?」 「もんじゃは腹にたまらないからなぁ」 「待ってスマホで検索するのん…」 アン子はすでに俺のあげたSIMを返して、ギガ数の高いSIMを使っていた。 「ケーキ食べ放題!行きたいの!」 「ケーキぃ?」 「行くのん!」 半ば無理やり袖をつかまれて、ケーキ屋さんに向かった。 甘いものは嫌いじゃないが、お腹いっぱいまで耐えられるか疑問だ。 店内には、色とりどりのケーキがならんでいる。確かに見た目的にはおいしそうなケーキばかりだ。俺は「レモンパイ」と「チーズケーキ」の2つをとりあえず席に持って行った。 アン子は皿にめいっぱいのケーキを詰め込んで戻って来る。 「ここはお残し厳禁だぞ。平気なのか」 「朝飯前なのん!」 結局ケーキ屋さんでアン子はお腹いっぱいになるまで色んな種類のケーキをむさぼり食っていた。 「モンブランが一番なの!」 俺らの方から金髪のクラスに入り、パスポートの件を報告すると、 「はあぁ⁉なんで亜暗まで行こうとしてるの?呼んだ記憶ないんだけど‼」 「アン子が行かないなら俺もいかない」 金髪は暴れたいのを必死に我慢している風だった。 「はあぁ…どうやら、しょうがないってやつね」 「じゃそういう事で」 俺らは早々とクラスから離れた。金髪は悔しそうにうなだれている。 俺のクラスに戻ると聞いてみた。 「アン子昨日も聞いたけど、本当に水着もってるのか」 「1着だけもってるん!嘘はつかないの」 そう聞いて安心する。 透き通る綺麗な海で早く泳ぎたいぜ! 「今日は唐揚げ食べ放題行くん?」 「あのなあ。無駄遣いはよくないぞ?まあ金入ったら使いたい気持ちはわかるけど、ランチ2食分食ってるからな」 「別にキョースケになら、いいの」 「また食べ放題の店見つけたら、迷わず行こう!」 「さがしとくの!」 そう言うと、授業開始の音がした。 グァムへ行く当日。 俺たちは軽めの荷物を手に、学校の授業中に金髪とも合流し、こっそりエスケープした 「車を校庭横につけてあるから、それに乗るわよ」 車に乗ると、黒いスーツの男がジュースのようなものを金髪に渡した。すぐに金髪は飲み始める。 「何飲んでいるんだ?」 「マッグのミルクシェーク。庶民の飲み物で数少ない、好きな飲みものの1つよ」 「あっそ」 「2人とも荷物少ないわね」 アン子は下着と水着とタオルしか荷物がなかった。俺も似たようなもんで、軽い荷物で差し支えなかった。パスポートと航空チケットも2人で確認し合った。 「私の荷物は車のバックに詰め込んでいるから」 2泊3日の旅行なのに、どんな荷物持ち込んでるのか。 車で無事、空港に着いた。黒服は金髪のおっきなケースを代わりに持っていた。 3人はマスク姿で広いロビーに辿り着いた。 「やっば、時間ないわ、飛行機に乗るわよ」 「飛行機初めてなん!」 アン子は久しぶりに喜んでいる。まあ俺も俺で乗るのが初めなので胸が高まっていた。 パスポートを見せ、荷物検査を終えて飛行機内に乗った。 「何で鉄のかたまりが飛べるん?」 「…なんでだろうな。分からん」 「ちょっと!なんで2人で座ってるわけぇ?チビはこっちの席よ!」 無理やりアン子を引きはがし、代わりに金髪が俺の隣に座る。アン子は不思議そうに窓を眺めていた。 金髪は俺と腕組みしながら、 「楽しみねぇ!ビーチで財布を取られたくないから、あのチビに留守番しててもらおうかしら」 「留守番は俺とアン子でローテーションする」 金髪は少しムッとしたが、腕を組んでまた上機嫌に戻った。 機内の食事も済ませ、数時間かけてグァム島に到着した3人。早速カラッとした熱さに2人は興奮していた。 「カラッとしてるから、熱くても気持ちいいなぁ」 「早速タクシーでホテルに行きましょうか」 ホテルは海のすぐ前にある豪華なホテルだった。 まんざらではない顔をした金髪は、 「1日目はビーチだけど2日目は自由行動でいきましょうか。シュノーケリングしたり、銃を売ったり、おみやげ屋を回ったり」 「本物の銃が撃てるのか⁉」 「キョースケなら撃てるでしょうね」 俄然胸張りで金髪は続けた。 「電話連絡は、らぁいん通話にしましょうか。夜前だから、早速ホテルの部屋へゆきましょう」 部屋に入るなりアン子がベッドに飛び込んだ。 「こんなフカフカなベット初めてなの!」 「子供みたいな事しないでくれる?」 金髪はゴツイ荷物を開けて、色々と探し物をしている。 いいホテルかどうかは、ベットで分かる。 俺もベッドへ腰を沈める。なかなかいい感触だ。 「夕食があるから、いくわよ」 「明日はビーチだなぁ。楽しみだぜ」 「ウチも楽しみなん!」 夕食は肉料理と多種多様なフルーツがいっぱい並んでいる。 「フルーツばかりだな…俺は肉料理をいただくか」 アン子はパイナップルにかじりついている。金髪は色んなフルーツを少しだけ取って、上品に食べていた。 「こりゃ美味いや。あとはゆっくり寝れるな」 俺はフルーツに見向きもせず、肉料理をおかわりしまくって、満足していた。 「満足なの!」 アン子はフルーツを食べて満腹になったようだ。 「もう少し大人っぽく食べる事はできないの?全く…」 金髪はハンカチで口周りを綺麗にしていた。 部屋に戻ったあとは、アン子はスマホをいじっていた。金髪は明日に備えてすぐ眠りについた。 俺はというとベッドのせいか、なかなか眠れず右に左に身体を動かしてはみたが一行に眠れない。 しょうがなくホテルに備え付けたシャワーを浴びて気分転換し、またベッドに戻ると眠気が襲ってきた。 22 今日は、いよいよビーチに行って海水浴を楽しむ1日だ。 「もう着替えた?」 そう言う、すみれはビキニ姿で、結構攻めてる感じなので正直美しい。ナンパが心配になるほどだ。 俺はトランクスのような、特に面白くない恰好だ。 「アン子はどうだ、着替えたか?」 アン子は学校のスク水だった…胸の辺りに自分の名前が書いてある。 「ぎゃははっ何その恰好!超~受けるんだけど!」 1着もってるって、それか…水着が無いなら言ってくれたら買ってやるのに…。 「ドーナツ型の浮き輪で安全なの!」 確かに今も浮き輪を装着している。 「スク水はほっといて、早くビーチに行きましょう?」 「3人で行くんだ!」 俺はアン子の手を引いて、そう言った。 外は晴天で、カラっとした熱さだ。すみれはビーチパラソルを借りる為、お金を出していた。 俺がその借りたパラソルを立てると、日陰ができた。 すみれが、日焼け止めクリームを塗りながら言った。 「私がまずここにいて荷物を見てるから、2人とも海水浴を楽しみなさい」 すみれらしくない譲歩をしてきた。 「じゃあ行ってくるぜ!」 「行くのん!」 水がとにかく綺麗だ。大洗海岸のようなドブとは全く違う。 「冷たいのん!」 そう言ってアン子はゆっくり前に進んでいく。ドーナツ型の浮き輪なので、おぼれる事は無いだろう。 俺は【ここまで】という浮き輪まで一気にクロールした。水の中に入ると、トロピカルな魚が沢山泳いでいる。 アン子が俺がいる場所まで迫ってきていたので、 「ダメだアン子!ここまできちゃあ」 そう言ってアン子の浮き輪を押しながら泳ぐ。 「最高に気持ちいいの!」 アン子はのんびりしながら言った。 「浅瀬まできたら、浮き輪はずしてもいいの?」 「浅瀬だけにするならいいぞ」 俺が言う前にアン子は浮き輪を外していた。大丈夫なのかおい。死人は出したくなかった。 「もぐるとすごく気持ちいいのん!」 ビーチからすみれの大声が聞こえる。次の留守番はアン子らしかった。 すみれが俺の手を引き、海に入っていく。すみれってこんなに胸大きかったっけ?脱いだらスゴイ系だな。まぁ着ててもすごいが。 アン子はビーチパラソルの影で買ったソフトクリームを食べていた。ちゃんと財布を守ってくれるか心配だ。 「つめたっ」 すみれは浅瀬に入ると、俺へ水をあびせられた。かわりに水をかけかえす。まるで彼女とデートしているみたいで不思議な感じだ。 どうしても胸を見てしまう…。ビキニが外れそうな水着を着てるからかも知れない。 女性は男が見ている所が分かる。 「すみれの胸に興味ある~?」 いかん、視線がバレバレだ。 「そんな水着着てるすみれが悪い!」 「どんなビキニしてても勝手でしょ!」 そう言いながらビーチボールを投げつけた。 「水がきれいだなー。こんな所いつも来るのか?」 「時々ね。でも最高のストレス解消よ!」 そう言いいながらビーチボールを渡す。 「金持ってるやつって、うらやましいな」 「私にするなら、一生お金には困らいわよ」 「『するなら』って…はっきり言ってアン子は幼馴染ってだけだしなぁ~」 「そこまで気が付いたら、もうわかるでしょ?」 ふと沖を見ると、ソフトクリームを食べ終えたアン子がこちらへ手振っている。 「アン子が呼んでるぞ」 「無視していいんじゃない?もっとあそびましょうよ」 「アン子を置いとくのは色々まずいんだぞ」 そう言って俺はクロールして沖砂へと泳いだ。すみれは残念そうに後を追うように沖に泳いだ。 アン子がなかなか帰って来ないので、少し不安になった俺は叫んでみる。 「アン子ーーっいるかーーー‼」 「いるけど溺れそうなのー!」 アン子の所在を視認した俺は、クロールですっ飛んでアン子を半分抱えた。 「だから言っただろう、深い所へ行くなって」 「違うの流されたのん…‼」 「戻るぞ」 アン子は砂浜で城作ってたほうが安全だ。 しかしアン子ほどの体重で、『抱えて走る難しさ』を知る。ダイバーはやはりすごい。 「もう帰ろうか」 「うんなー」 2人は部屋を取っているホテルに向かった。食事もしたいがまずは部屋だ。 部屋に戻ると、部屋のすみに体操座りで心のしぼんだ、すみれがいる。 「どうしたんだ?」 「…じゃないもん」 「何だって?」 「私悪者じゃないもん!」 そう言って泣き出した。 「すみれが謝れば、悪役じゃない。でも謝らないなら悪者だな」 「誰が謝るか…」 俺とすみれはジーっとすみれを見つめる。 「……ごめん」 「聞こえないなぁ」 「だからごめんって言ってるでしょう!わかった?小豆洗い(あずきあら)」 やれやれと服に着替えていると、 「キョースケ、日焼けしてるのん!」 本当だ。特に肩が真っ赤になっている。 「私は日よけ止め塗ってるからこの通りよ?」 誰も聞いてない。食事に行くみたいな事を話し合っている。 すみれはまだ水着のままだったのでTシャツを1枚着てキョースケの後を追った。 「グァムと言えばアメリカ!アメリカといえばステーキ!」 「ステーキ食べるのん?」 「ごめんすみれ、お金出してくれないか!」 そう言って俺は土下座した。 「ま、まぁ土下座までさせたんだからいいわよ、カードも持ってるし」 「ありがとなの!」 「キョースケだけにおごりたいんだけど?」 「アン子も土下座しろ土下座」 アン子もキョースケと同じように土下座した。 通りがかったアメリカ人が、 「オー、ジャパニーズ・ドゲザ‼」 と笑って向こうへ消える。 「分かった、分かったから普通にして恥ずかしいから」 「ありがとう!存分にゴチになります!」 「なの!」 そう言ってはしゃぎながら、ホテル内にあるステーキ店に入ってゆくのだった。 3人はステーキ屋ではしゃいでいた。今日の旅以来、いつ食べられるかわからない代 物である。ステーキが来て最高潮に達した。 「上手いが固ぇーなこの肉」 俺はフォークで持ち上げてかぶりついていた。 「なかなか切れないん…」 アン子はまず肉を切る事自体、苦戦中である。 「だから柔らかい肉を頼めばよかったのに」 すみれは柔らかい肉を心得ていたので、ナイフとフォークでお上品に食べていた。 「前もって教えてくれよ~そういうことは」 「本当はね、牛肉より豚肉の方が栄養価が高いの知ってる?だから医者は豚肉を…」 2人はすみれのうんちくも耳に入ってこず、肉と格闘していた。 何とか平らげると、お腹が物理的に膨らんでいる。 「ふー満足だ」 「…なの」 「なかなか美味しかったじゃない」 すみれはハンカチで口周りを拭いている。 「明日の予定を言おう!」 俺は仕切りだした。 「俺は午前中は銃を撃ちにいく。そのあいだ2人は良い場所にパラソルを立てて、泳いでいてくれ」 「えー私はキョースケと同行したいんだけどぉ」 「すみれは銃を撃てないだろ⁉すみれはいい姉貴になって、アン子と荷物を見ててくれ」 「しょうがないわねぇ…。全くもう」 「よし決まった!宿に戻ろう!ゴチになります!」 「ますの~」 そんな下らない話をしながら宿に戻った。すみれはTシャツを脱ぐと水着になる。 「着替えるから2つ目の部屋にいきなさい!」 2人は素直に隣の部屋に入って待っていた。 するとすみれはパジャマ姿でやってきた。 「キョースケ用のパジャマもあるわよ。じゃあそういう事で私とキョースケは同じ部屋で寝るから、チビは隣の部屋で寝なさい」 アン子は心配そうに俺をみつめたので、 「大丈夫、ただ寝るだけだから。また明日にな」 腹がいっぱいになったからだろうか。眠気が襲ってきて、そのままベッドに包まれながらそのまま眠りに入ってしまった。 「…スケ」 「…ョ―スケ」 「はっ!」 俺はすみれに揺さぶらされて目が覚めた。 上半身がはだかである。 「きゃーっ」
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