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もちろん大島は、一番の問題が「入学式に参列できたのにしなかったこと」ではないことくらい重々承知している。
娘が何よりも傷ついたのは、『妹との差をはっきりと見せつけられた』事実なのだ。
実際はどうあれ、そんな風に感じさせること自体があってはならなかった。親としての禁忌を犯してしまったのが、今も悔やまれる。
まだ幼かった娘の中に芽生えた『父への不信』は、今いったいどういう形で存在しているのか。
もう完全に枯れ果てていればいいが、大島はそこまで楽観的にはなれなかった。せめて大きく育つことなく『芽』のまま眠ってくれていれば御の字だろう。
そして、この情けない父親を反面教師にして欲しかった。
彼女がいつか親になったとき、我が子に同じ哀しみを味わわせることだけはないと信じられる。
間違えるのは自分だけで十分だった。
──同じ轍を踏む人間は少ないほどいい。部下でも、娘でも。たとえまったく無関係の『誰か』でも。
~END~
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