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「……大島くん! なんでそんな大事なことを言わなかった!?」
課長の慌てた様子に、この息苦しい雰囲気の原因は自分なのだと思い知らされる。「部下にきちんと休みを取らせる」のも管理職の職務なのだから、彼の心中は複雑なのかもしれない。
特に繁忙期でもないのに「入学式にさえ休ませない上司だ」と見做されたら、と課長が不安を覚えても仕方がないと理解はできた。
家庭の事情をいちいち詮索するような『アットホーム』な社風でもない。大島自身、井川の息子のこともいま聞いて思い出したくらいだ。
そもそも個々の課員の子どもの年齢など、データとして知ってはいても課長が日常的に意識していないのはむしろ当然だろう。
「井川くん、今は入学式に父親も行くの?」
「えーと。そりゃまあ全員ってことはありませんけど、普通に行くご家庭が多いんじゃないでしょうか。……あ、あくまでもうちの子の学校では、ですけど」
微妙に納得が行かずに尋ねた大島に、少し気まずそうに答える彼。
井川の気遣いには感謝するが、この課内の面々の受け取り方からもそれが世間の常識らしい。
大島には娘が二人いる。
この『失態』は下の娘の際に取り返そう、と密かに決意を固めた。
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