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◇ ◇ ◇
「さくら、小学校の入学式はお父さんも行くからな」
二年後の春。
今度こそ、と早目に申し出て休みも確保し、大島は意気揚々と次女のさくらに告げる。
「えー、ほんと!? やったぁ!」
無邪気に喜ぶ娘に目を細めた大島は、調子に乗って言葉を継いだ。
「お姉ちゃんの時はサボっちゃったから。今度こそちゃんとしないと──」
「……お父さん、お仕事忙しいからじゃなかったの?」
長女のあやめの絞り出すような声に、大島はようやく己の失敗を悟る。
少なくとも本人の前で口にすべきではなかった。改めて考えてみれば自明だが、時間は戻せない。
当時、妻のみどりが「お父さんはお仕事が大変だから。家族のために一生懸命働いてくれてるのよ」とフォローしてくれていたことも知っていたのに。
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