春霞

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「……何?」  席を外していた妻が戻って来て、漂う緊迫感に戸惑った様子で部屋を見回す。  強張ったあやめの顔に気づいたみどりにそっと肩を抱かれ、娘は母に抱き着くと声を上げて泣き出した。 「あーちゃん、どうしたの? 向こうでお母さんとお話しようね」  あやめの後頭部を優しく何度も撫でながら妻が促す。  そのまま連れ立ってリビングルームを出て行く二人の背中を、大島は目で追うしかできなかった。  何の責任もないさくらまでが、父と二人残されたこの部屋で痛みを堪えるような表情を浮かべている。  結局、その日は夫婦がそれぞれ娘を宥めるのに尽力することに費やして終わった。
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