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今日のビーチは曇天で、海の色は一層深く感じられた。雲ひとつない、澄んだ空と海が一体となるような光景ばかり持ち上げられるが、くすんだ空と緑がかった海が神秘的であることを、俺はよく知っている。
しっとりとした砂に座り込み、いつもの場所を陣取る。トラベルブックの一枚に、水分を含ませた筆を滑らせる。それからパレットの上でたっぷりの水と複数の青や緑を混ぜ合わせて作った、海の色を乗せていく。
……違う。この色じゃない。俺の描きたい海は、こんなものじゃ、ない。
そう感じ取りながらも、筆は止まらない。失敗作だと諦めて、ゴミにしてしまうのは簡単だ。ただ、捨ててしまえば、俺が生みだしたものが無価値で無意味であると、自分自身で認めることになってしまう。それがどうにも我慢ならない。
最後まで描き上げて、せめて俺だけは、費やした時間と感情を、愛してやりたい。くだらないプライドとエゴなのは分かってる。でもそれを捨ててしまったら俺は俺でなくなるような気がする。それだけは絶対にごめんだった。
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