my colour

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 紙を彩る絵の具は、柔い潮風に晒されて乾いていく。ほんの少ししか目を離していないのに雲は流れていて、海は違う表情を見せていた。  太陽の光と雲のかかり方、夜ならば月の形や星の明るさ、それらを操る風。あらゆるものが、毎秒ごとに海の色を変える。一瞬たりとも同じものなど存在しない。無限大の青の前では、なんと無力だろう。  優衣のように適当な会社のグラフィックデザイナーにでもなって、求められたものを生みだして、体裁良く生きる方が気楽に決まっている。でも俺は出会ってしまった。一生を賭けてでも、描かねばならないものに。  乾いた絵の具に再び色を重ねる。まだ絵とも呼べない淡い輪郭に、少しずつ少しずつ、祈るように筆を置いていった。
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