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若干小学生にて腐に目覚めた律は、BLに夢中になった。
少女漫画の恋愛ものは苦手なのに、BLだととてもピュアに見えるから不思議だった。
男と女はこうあるべき、みたいな押し付けがないのもいい。あり得ないような展開も、胸が切なくなるような展開も、キュンキュン萌え転がってしまう。
そうすると現実でも、男子が仲良さげにわちゃわちゃしていると、脳内でアテレコが入るようになってしまった。
ヘッドロックをかまして笑い合っているクラスの男子たち。今は淡い恋心でも、成長するにつれ、互いを強く意識するようになり――、
『ずっと……お前のことが好きだったんだ』
『嘘、だろ……? だって、俺の片思いだと思ってたのに』
そんな展開を想像してにやにやしていたら、その男子と目が合った。相手が頬を染めたので、律は首を傾げた。
そして数日後。
みんなの前で告白をされ、びっくりした律はスパッと断り……
「だったら、じろじろ見るんじゃねーよ! おれだってお前のことなんか好きじゃねえよ!」
それから律の勘違いされ人生が始まったのだった。
その男子が人気者だったこともあり、律は秒で嫌われ者になった。
女子たちは普段から鬱憤が溜まっていたのだろう。水を得た魚のように、活き活きと律をなじる、なじる、なじる。
ピーチクパーチク言わせておけばいいだけなので、それはまったく気にしていなかったが、上履きを隠されたのは参った。できれば親に言いたくない。
ため息をつきながらあちこち探してゴミ箱を漁っていると、目の前に上履きが差し出された。
顔を上げてみれば、三年から同じクラスになった谷口沙也子だった。
彼女は何か言うでもなく、にこっと微笑むだけだった。
律の上履きがどこに隠されていたのか、沙也子の服は薄汚れていて、鼻の頭は少し黒くなっていた。
だというのに、律の上履きは綺麗だった。きっと、沙也子が汚れをはらってくれたのだ。
誰に何を言われたって、律は平気だった。
けれどもこの時、確かに、ものすごく、嬉しかった。
思っていた以上に律は傷ついていたし、沙也子の優しさが心に沁み渡った。
涙が枯れるほど大泣きする律の背中を、沙也子はずっと撫でていてくれた。
沙也子と仲良くなると、律に表立って攻撃する子はいなくなった。涼元一孝が怖いからだ。
鋭い目つきに辛辣な物言い。周囲から恐れられている一孝は、幼馴染である沙也子をとても大切にしていた。
一孝は神童と言われるほど優秀で、教師ですら彼に授業で突っ込まれないよう腫物に触るみたいに接していたから、なおさらだった。
間接的に一孝に庇われているようでしゃくだったが、助かっていたのも事実だ。
そして沙也子と親友になり、律は腐った趣味も含めて、彼女には何でも話してきた。
それなのに。
律は今、なんとなく沙也子にも言えない悩みを抱えている。
それは、二十歳になっても、初恋すら経験していないことだった。
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