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 律の中に恋が存在しなくても、世界中どこにだってそこかしこに溢れていて、例えば目の前にも。 「谷口、飲みすぎんなよ。水かお茶を間に挟んで」 「うー、ん……」  律が3杯目のビールを飲み干す間に、やっと一杯の小さなピーチフィズを空けた沙也子は、メニューを眺めながら面白くなさそうな顔をした。  今日は律のバイトが休みなので、沙也子と駅前で飲んでいたら、バイト終わりの一孝が合流したのである。  律や一孝と違い、沙也子はアルコールにてんで弱かった。一孝の心配は尽きず、可愛い彼女が飲みに行くと、必ず迎えに行くか合流してくる。  沙也子は恐縮しているようだが、この男にとって悶々と気を揉むより遥かにマシなのだろう。 「私は緑茶ハイにしようかな」  律も少し抑えることにした。  まったく酔っていないけれど、沙也子を飲ませすぎないためだ。緑茶ハイは律にとってお酒ではなく、沙也子もその認識なのだった。  沙也子はしばらくメニューと睨めっこをしていたが、それならと観念したように言った。 「分かった。じゃあ、烏龍茶も頼む」  呼び出しボタンを押すと、すぐに店員がやって来た。  一孝は律の緑茶ハイ、そして沙也子の烏龍茶とピーチフィズを頼み、自分のビールをおかわりした。  ほとんどジュースのような桃のお酒は、最近の沙也子のお気に入りだ。頼んでもらってホッとしたのか、満足げににこにこしている。 「ちょっとお手洗いに行ってくるね」  席を立った彼女の後ろ姿を、一孝はじっと見守っている。足取りが危なげないと見て取ると、静かにジョッキを傾けた。  途端に沈黙が訪れる。  沙也子がいなくなると、こんなものだった。一孝と話が弾んだことなど一度もない。  かといって互いに気まずさはなく、子供の頃からもう慣れたものだ。  律がライスコロッケをつついていると、離れた席から盛り上がる声が聞こえてきた。 「ねー、大学生カップルって、卒業までに別れる確率70パー超えてんだって。まっつんが卒論にしようと思ったら、申請却下されたって」 「あははっ あいつバカだねえ。でもさー、大学はもちろん、高校生でもそのまま付き合ってるなんて、ほとんどなくない?」  律はふいに訊いてみたくなった。 「涼元はさ、沙也子と結婚したいの?」 「当然」  当たり前のことを言うなとばかりの態度に、軽くイラッとする。けれども、律としても一孝の答えは分かりきっていた。  それでも訊いてしまったのは、それほどの相手に出会えた羨ましさからだった。
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