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 小学生の頃からずっと沙也子を好きだった一孝は、高二の三学期にようやくその想いを成就させたというのに、その愛情は落ち着くどころか、どんどん加速しているように見える。 「まあ、あんたなら、何をおいても沙也子を幸せにしそうだね。私はいつか自分が結婚するなんて想像できないなー。まったく考えられない」  言ってから、我に返った。  気まずい気持ちでコロッケを口に放り込む。  この男相手についこぼすなんて、うっすらと酔いが回っているのかもしれない。  夢見が悪かったせいか、朝からどうにも調子が悪い。  ふーんと流されるかと思いきや、意外にも一孝はきちんと言葉を返した。 「森崎の気持ちは分かる。大抵のことは実力でどうとでもできるけど、谷口に出会えたことが、俺の人生最大の奇跡だった。出会ってなかったら、一生結婚のケの字も考えねえだろうな」  そういえば、一孝には母親がいなかったことをぼんやり思い出していると、沙也子が戻ってきた。 「二人で話してるなんて珍しいね。なんの話?」  嬉しそうに微笑みながら、グラスを手に取った。 「……沙也子! それ、私の緑茶ハイ!」  まずいことに、けっこう焼酎が多めに入っていた。慌てて止めてもすでに遅く、沙也子は自分の烏龍茶と間違えてぐびぐび飲んでしまった。  一孝が素早く店員を呼び止め、お水を頼む。 「谷口、水飲め。烏龍茶でもいい」  珍しく焦っている一孝が沙也子に水のグラスを勧めると、彼女はふにゃりと笑った。 「やーだーよー、おさけがいい。もっとのむもん」    律は沙也子がここまでへろへろに酔うところを初めて見た。  目を丸くしているうちにも、沙也子がぎゅうっと一孝の腕にしがみつく。  ぽよんとした沙也子の胸が腕に当たっていて、一孝は魂が抜けたみたいに固まった。  律は笑いを堪えた。  同棲のような生活を送っているくせに、一孝は沙也子からの接触にめっぽう弱いのだ。  普段はスカしていて いけ好かないが、律はこの男のこういうところが憎めなかった。  お酒に酔うと、いつもは抑圧している行動が出やすいという。沙也子は本音では一孝に甘えたいと思っているということだ。 「ちょっと。沙也子、明日一限からあるからね」  わざと呆れたように言ってやれば、一孝は激しく動揺した。 「……っ いちいち言われなくても分かってんだよ」   「彼氏ヅラしちゃって」 「はあ? ヅラじゃねぇよ。そのまんまだろ」  狼狽えている一孝を酒の肴にしばらく楽しんだ律は、心が軽くなっているのを感じた。  
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