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同窓会
5年前の5月。
楓は箸を置き、テーブルに置いた携帯を取った。3年先輩の千堂と社員食堂でハンバーグ定食を食べている時に、大学時代の友人から電話が来たのだ。
「あっ、すいません。ちょっといいですか?」
要件は、大学の同窓会の案内だった。改めて日時や場所を知らせるハガキを送るが、住んでいる住所に変更はないかの確認だった。変更はないと伝え、早々に電話を切り、携帯をテーブルに置いて箸を持ち食事に戻る。
「何? 同窓会?」
「はい…」
「菊池、卒業したばっかだろ? もう、同窓会かよ」
「ただ、集まって飲みたいだけですよ」
「まぁな。皆、就職して近況でも訊きたいんじゃねぇの?」
「あぁ……どうしようかな…」
楓は同窓会に行くかどうか悩んでいた。千堂のいう通り、まだ大学を卒業して約2ヶ月。同窓会というほどの期間も経っていないし、近況というほどの仕事もしていない。
(何を話すんだよ。皆、研修などで特に話す事なんてないだろうに…)
菊池 楓、23歳。
大学を卒業し、建築会社『アーキテクチャ』に就職、営業2課に配属された。入社し研修指導中で、3年先輩の千堂に指導を受けている。趣味はインテリアショップ巡り。
千堂 亮 25歳。
大学卒業後、勤務して3年目。営業2課で建築資材の手配、モデルハウスの展示会で接客販売など幅広く担当している。
「ん? 行かねぇの? 友達とかも来るんだろ?」
「まぁ……」
「ん…? もしかして、会いたくない人でもいんのか?」
千堂がニヤリと笑い、楓に尋ねる。
「別に……そんなんじゃないですよ。ただ…」
「ただ? ん?」
何だか楽しそうに千堂の顔がニヤけているのを見て、楓はジッと千堂の顔を見つめて微笑み言った。
「千堂先輩には、言いません」
「出たっ! 悪魔の微笑み! 怖ぇからやめろそれ!」
「何ですか、それ? 悪魔の微笑み?」
「あぁ、微笑んでいるようで、目の奥が笑ってないんだよ!」
「えっ…」
楓は千堂にそう言われて、初めて自分の中にあるキズを見られたような気がして焦る。
「お前、さては何かあったな」
「いえ、別に何も」
「まぁいいや。何かあったら、いつでも聞くからさ」
千堂がそう言ってくれたが、楓は微笑んで食事を続ける。
「だから、俺にその悪魔の微笑みはやめろ!」
「だって、仕方ないじゃないですか。俺は普通に微笑んでいるつもりなんです!」
「じゃ、もう俺に隠さず話せ。そうすればもっと普通に微笑む事が出来るだろ」
楓は返事をする事も出来ず、ただ千堂に「すいません」と頭を下げた。
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