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(――森、行ってみるか。)
彩奈は人知れず、放課後の冒険について考えていた。この数秒後、指名に気付かないでいたせいで、先生に叱られることも知らずに。
「もー、何やってんの。一応、アタシたち受験生だよ?」
「ちょっと考え事しててなあ…」
「まーた小説のネタでも考えてたのー?」
「んー…まあ、そんなとこ。」
授業が終わり、今は休み時間だ。凜が彩奈を咎める。凜は成績が良い方で、彩奈に勉強を教えることもある。ただでさえ成績は良くないのに、何をやっているのだと。純粋な優しさが、彩奈に刺さる。しかし、いつも通り「ネタ作り」といってごまかしておいた。
「だって暑いじゃん…?」
「まあ、そうだね…彩奈、花まだだしね。直射日光はきっついよねェ…」
「…ん。」
大変だなあ、と呟く凜。と、凜はある噂を思い出した。
「ねえ、知ってる?大樹様の噂。」
「大樹様?町の真ん中の、あの森のでしょ?」
「そうそう。大樹様に触りながら、その周りを時計回りに回ると、何かがあるって噂があるの!知らない?」
この町は、小さな森を囲むように家々や役場、店などが並んでいる。そして、その森の中にある大きな木を、皆「大樹様」と呼んでいる。不思議な力を持つだとか、そういう噂があるのだ。
「今初めて聞いた。というか、それ本当?」
「…多分、ね。実際に行った人がいるのかも、よく分かんないの。」
「じゃあ嘘かもよ?」
「分かんないじゃん。面白そうだし、もし本当ならそれこそネタになるよ?」
彩奈はぴくりと反応した。――ネタになる。それだけでも、彼女の興味をそそるには十分だった。最近は趣味の執筆もスランプになり、ネタなど本当に見つかっていない。
「…行く!」
「ええっ⁉」
「オイオイ、“花無し”がまた変なことしようとしてんぞ。」
「あんなの信じるヤツいねェだろ。これだから…」
まさか本気で、と驚愕する親友。揶揄するクラスメイトたち。うるさい、これは私が決めたんだ、口出すな。
「だって面白そうじゃん。私は行くよ。」
「えー、俺どうなっても知んねえぞ。」
「えと、気をつけてねェ…。」
もう何を言っても無駄だろう。皆はそう考え、何も言わないことにした。彩奈はくるっと再び凜の方を見て、言った。
「私は本気だよ。」
「はは、彩奈のそういうとこ好きだよ。」
「そりゃどうも。」
決行は、今日の放課後。涼みにではなく、噂を確かめに行く。彩奈は改めて、授業と冒険の準備を始めた。
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