5人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
晴れ渡る青空。それをバックに咲き乱れる薄紅色の桜はなんと美しいことか。
ゆったりと舞い落ちる花びらは、可憐な乙女が優雅に舞うよう。
──そんな、うっとりと魅入ってしまう桜の道を、慌ただしく駆け抜ける者がいた。
真新しい制服に、スクールバックを片手に息を切らせ、落ちた花びらを撒き散らせながら、門を潜っていく。
いかにも今日入学する中学生の風貌である彼──石谷は、誰もいない中庭を通り過ぎ、玄関に向かおうとしていた。
彼が何故、大事な日であるのに遅刻したかというと、単に寝坊である。
彼自身は明日は入学式であるから、それに備えて早めに寝たのだが、思っていたよりもぐっすりと寝てしまった上に、親が一日間違えて今日が入学式だと思っていなかったらしく、起こしてもらえなかった。
なんということか。新しい門出から恥をかきたくない。
玄関前の階段数段をすっ飛ばそうとした時。
真上の桜の木から大量に花びらが落ちていく。
風が吹いているわけでもないのに、何故。
この時、思わず立ち止まり、見上げたのが悪かった。
「やべぇ! やべぇやべぇ!」
木から落ちていく男子生徒の姿を捉えた。
何で、木に? と疑問に思いながら、石谷にのしかかった瞬間まで、スローモーションのように見えた。
重みを感じた時には既に遅く、同時に骨の悲鳴が聞こえた。
あ。これは終わった。
仰向けとなり、すぐさまその男子生徒は石谷の上から降り、慌てた様子でこちらに何か言っていたようだが、男子生徒の背後に映った桜を見ていた。
「……綺麗、だなぁ……」
現実逃避をせざるを得ないぐらい、今の現状を理解したくはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!