新しい出会いに愛憎

1/7
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
晴れ渡る青空。それをバックに咲き乱れる薄紅色の桜はなんと美しいことか。 ゆったりと舞い落ちる花びらは、可憐な乙女が優雅に舞うよう。 ──そんな、うっとりと魅入ってしまう桜の道を、慌ただしく駆け抜ける者がいた。 真新しい制服に、スクールバックを片手に息を切らせ、落ちた花びらを撒き散らせながら、門を潜っていく。 いかにも今日入学する中学生の風貌である彼──石谷は、誰もいない中庭を通り過ぎ、玄関に向かおうとしていた。 彼が何故、大事な日であるのに遅刻したかというと、単に寝坊である。 彼自身は明日は入学式であるから、それに備えて早めに寝たのだが、思っていたよりもぐっすりと寝てしまった上に、親が一日間違えて今日が入学式だと思っていなかったらしく、起こしてもらえなかった。 なんということか。新しい門出から恥をかきたくない。 玄関前の階段数段をすっ飛ばそうとした時。 真上の桜の木から大量に花びらが落ちていく。 風が吹いているわけでもないのに、何故。 この時、思わず立ち止まり、見上げたのが悪かった。 「やべぇ! やべぇやべぇ!」 木から落ちていく男子生徒の姿を捉えた。 何で、木に? と疑問に思いながら、石谷にのしかかった瞬間まで、スローモーションのように見えた。 重みを感じた時には既に遅く、同時に骨の悲鳴が聞こえた。 あ。これは終わった。 仰向けとなり、すぐさまその男子生徒は石谷の上から降り、慌てた様子でこちらに何か言っていたようだが、男子生徒の背後に映った桜を見ていた。 「……綺麗、だなぁ……」 現実逃避をせざるを得ないぐらい、今の現状を理解したくはなかった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!