レンタル殺意

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 開いた扉は二回ドアベルの音を鳴らし、俺を迎え入れた。中は特に大きくなく非常に小規模な店という感じだったが、感情のレンタル……殺意の貸し出し……それらの言葉が一度頭を駆け巡ると大きくないこの場所がとてつもない闇に錯覚し、その深さに呑まれてしまいそうだった。 「あ、あのぉ~」  居るであろう店主に呼び掛けながら更に足を進ませ、顔を四方に動かして慎重に辺りを見回す。所々に飾られているのは髑髏や紫色の火を灯す蝋燭等の商品ではないアンティークばかり。  何も知らない奴がここに迷い混んだらきっとヤバい店だと思うに違いない。俺もチラシを見ていなけりゃあ、黒魔術的な何かをしていそうな店だと勘違いしそうだ。 「へいいらっしゃい……」  奥から暗く生気のない老人の声が聞こえ、何回か物音が鳴ると腰を悪そうに手で叩きながら七十半ばの高齢男性が受付台に立った。そして老眼鏡を手に取り怪訝な表情で俺の事を凝視するとレジを慣れた手つきで操作し、続けてその老人は言う。 「今日はどの感情をお求めで?」 「……え?」  当たり前に仕事を始める彼に俺は思わず聞き返してしまった。 「だから今日は何の感情をレンタルするんで?」  気に触ったのか先程とは違い、強い口調で尋ねてくる老人。さぞ当たり前かのように……普通の店であるかのように振る舞う様に俺は呆然としていた。八割がた詐欺だと考えていたし、どうせ出てくるのは半グレの若い兄さんだと思っていたからだ。予想とは異なる状況にどうして良いか分からずただ立ち尽くす。今俺の心にあった言葉は実にシンプルで単純なものだった。 (何か……本物(マジ)っぽくね?)
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