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「ふん……」
あの男が置いていった時計で時間を確認しながら私は貧乏ゆすりをして待っていた。中々戻ってこない奴は数時間どころか二日、三日経っても姿を現すことはなかった。
カッコー!カッコー!
昼の十二時を知らせる音と共に掛時計の鳩が飛び出し、私は老眼鏡を外して晴明のツボを押さえながら諦めるように呟く。
「これで百人目だな……殺意をレンタルしたのは。そして百人皆がここに戻ってくる事はなかった。
ある者は復讐をするも、殺意が消えず廃人になり……ある者は罪の意識に呑まれ自ら命を絶つ者も。そしてあの男は……」
私はあの男が遺した物を店の棚に丁寧に位置を変えながら飾り、一歩遠くからその出来を確認する。特にこれといった特徴もないアイツをそのまま投影したような普通の見栄えであった。
「殺意の矛先が必ずしも恨んでいる相手に向くとは限らない。あの男が本当に殺したかったのは自分を虐めてきた奴ではなく、虐められる程弱く、何も成長しないまま大人になってしまった自分の方だったのかもな」
チリンチリン!
店のドアベルが鳴り、私は急いで受付に戻ると恐る恐る入ってきた客に対して、咳払いをしながら詰まっていた痰を飲み下し声色を変えて何時ものように言った。
「へいらっしゃい……今日はどの感情をお求めで?」
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