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「………ちょっと考えさせて」 「逡巡する時間はないのです。今、この時の英断が必要です」 「そんなこと言ったって!そんな覚悟、簡単につくものではないわ。  あたしはさっき、光と共に死ぬことを誓ったの。  輝く海が滾る海に変わるならあたしもその中で死ぬのよ」 「いけません。海はそれを望まない。  ホザイアに棲むためには呼吸を変えなければなりません。  出立は今夜です。  それまでに練習出来るものはすべきです。  簡単に出来るものではありませんが、その手ほどきは私がします」 「………今夜?そんな」  不安で鼓動が荒くなる。  迫るタイムリミット。  それが分からないわけじゃない。  民の全てに同じように死を望んでるわけでもない。  透明な水中、顔周りの水だけが仄かに歪む。  ほろほろと溢れ出す涙を止められない。  その両頬を、ベクネの水かき付きの手のひらが包み込んだ。  深い青緑の手のひらは吸い付くようにひんやりとして、思いのほか柔らかい。 「……あなたを救いたい。その一念でここまで来たのです」  漆黒の目隠しにある小さな穴から、熱い視線が送られているのが分かる。  けれどこの問題は、悩みは即座に解決できる類のものではない。  
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