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「皆のもの、ベクネより差し入れじゃ。  深海生物の肺で作った少量の酸素で生活が出来る薬らしい。  このカプセルを飲んだ後、深海生息用の呼吸法を習得すればその後ずっと無理なく海底で動けるそうじゃぞ」  ふらりと王が民の前に現れ、大きなホラ貝に詰められたミルク色のカプセルを皆に覗かせた。  途端に溢れる不満の声。  ヒステリーを起こし、飲むものかと突き出した手でホラ貝を床に弾いてしまった者もいた。  王に失礼をしたと慌てて拾う民の中に、沈んだ表情のタガルがいた。  王はカプセルをホラ貝に戻しながら声をかけた。 「タガル。お前も片意地を張らんと、繋げる命は繋ぐ努力をした方が良い」 「父上は海底に下る決断をされたのですか?」 「いいや……わしはもう寿命が近い。肺も若い頃よりずっと弱っている。深海の水圧にはどうやっても勝てはしないじゃろう」 「父上が残られるのであればあたしも」 「いやいや、お前が行かねば、このマーラックの種は完全に途絶えると言っても過言ではない。皆がお前を慕っている。お前が行くと言えば付いていくものも増えるじゃろう」 「でも!」 「いいかタガル。人生にはな、上昇の時と下降の時がある。そしてそれは万物に言える事じゃ。ハヴィオンもまた同じ。楽園の時もあれば、地獄の時もある。この星を愛し、ここで生きることを選ぶのであれば、ハヴィオンが持つどちらの時期も赦し、受け入れるべきじゃ」 「…………で、も」 「皆のものを、頼む」  厚ぼったい父の手のひらがタガルの両手に被さり、そこに額が重ねられた。  祈るような懇願に、それ以上拒むことは許されなかった。  タガル付の従者で年配のディトーが父の背に触れて寄り添い、タガルに向けて儚げな笑みを送った。
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