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【5】
「それでは、付いてきてください。呼吸法は、先ほど教えた通りです。パニックにならずに、ただ私を見て進んでください」
ベクネが光るブレスレットを付けた右腕を上げ、それを合図に皆が潜水を開始した。
全員ではない。
マーラックの民全体の六割ほどだろうか。
またラートンを含む浅瀬の魚群がタガルの呼び掛けによって集まり、海中は珊瑚の産卵時のような混み合いになった。
先頭を進むベクネがタガルの手を引く。
実際、皆が道標にしたのはベクネではなく、愛する姫タガルであった。
いつもは海水温が低い夜の海だが、今宵はそうはならなかった。
日が沈んでも温い。
次の朝日からまたぐんと熱が高まるのは必至だろう。
暗いと思っていた夜の海も、潜るほどに『ああ、あれは明るかったのだ』と気づく。
あたしたちは行くのだ。
見知らぬ種が統治する漆黒の闇の世界に。
無意識に委縮する身体に、言われた通りのゆったりとした呼吸が出来ない。
それを見てベクネが囁く。
「大丈夫。何も恐れることはありません。
同じエイエの体内です。ただその深部に下るだけ。
星の中心部に移行するだけです」
何も見えない闇の中、頼れるのはベクネの手だけ。
冷たい手だが、集中して握れば脈打つ鼓動が聴こえるようだ。
800メートルほど下った先に門があった。
そこをベクネが開門し、現れた世界にタガルは驚く。
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