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民を迎えたのは、果てなく深い闇に虹色の光を放つ生物群だった。
透き通った体の魚もいれば、輝く帯を発光させる紐状の海月もいる。
闇で閉ざされていると思った世界は、宝石箱のように美しい色彩で溢れていた。
その時、ベクネが初めて目隠しを取った。
ベクネの虹彩は蛍光のマリンブルーだった。
長い睫毛に覆われた大きな切れ長の瞳は、優しい光を湛えて揺れる。
その光にタガルの胸は撃ち抜かれたような痺れを感じた。
「これがこの地に棲む私たちが得た進化です。
熱や大気の変化、浸食がどこまで及ぶかは分からない。
けれど最期の一日まで……ここで一緒に暮らしましょう」
タガルを先頭に民の群れは門を潜り抜けていく。
その数千、数万の民の目にも、この新世界は眩く魅力的に映った。
扇状に魚群が門一点に吸い込まれていく。
砂時計の砂が落ちるように、不可抗力の引力で。
これは同じ星にある異世界なのだ。
波打つ虹色が、ハヴィオンを取り巻く紅炎とリンクする。
溢れ出れば戻らない涙を、柔らかな指の腹が撫でてくれた。
了。
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