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 タガル付の従者であるディトーは、声高に注意を促す。  この姫には何を言っても無駄だ、と諦念を持ちつつも、言わずにはいられないのだ。  その言葉をまさに足蹴にする如く、タガルは尾鰭で水面を打ち、飛沫をぶちまけて笑いながら逃げていく。  その滑稽なやり取りを見て、食料調達に勤しむ民たちもまた腹から笑うのであった。  一億五千万キロ離れた宇宙から燦燦と光を放出する恒星ハヴィオン。  タガル達の棲む星、エイエはハヴィオンを中心に回る第6惑星に当たる。  エイエの自転は60時間。  毎朝ハヴィオンは東の地平線から夜の闇を割くように華やかに登場し、夕刻、輝き疲れたかのように西の地平線に沈んでいく。    ……――その『熱』は緩やかに上がり始めたのだと言う。  ハヴィオンの輝度がこの千年上がり続けていることは、マーラックの学者の間でも長年危惧されていた事実だ。  大昔に大地を覆っていた氷の層は、現在全て消滅している。  その融解に伴う海面上昇により、島々の面積が年々狭くなっていることは王国の民なら誰もが認知していた。  輝度の上昇、海面の上昇………古代神話を伝承する神官は、先日不吉な預言が実現する兆しがあると言った。 『ハヴィオンに芽が出ると世界は消滅する』  果たして。  その年、7の月3日。  ハヴィオンにこれまでなかった芽が生えた―――――……  
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