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   彼は穏やかな低い声でマーラックの民に向かって言った。 「この星エイエは数日のうちに熱波に沈むであろう。  助かりたければ我々の国、ホザイアに参られるが良い。  ただしここと同じようにはいかない。  闇は濃く、食べるものも変わる。  けれど同種であるならば、鍛錬すれば同様に生きられるであろう」  ベクネの救済案に人々は明らかな狼狽を見せた。  この星はもう助からない?  浅い海では生きられない?  だから深く潜れと言う訳か。  別の星へ逃げる技術はない。  けれど光のない深海で暮らしていけるだろうか……  頭上に広がる青空をもう見る事も出来ず  全てを明るく照らすハヴィオンの輝く光を皮膚に浴びることも叶わず  何もない暗く冷たい、見知らぬ人種が統治する国で  そんなことが  そんなことが。 「あたしは無理。ここに残るわ」  紛糾する議会を腕組みして見下ろしながら、タガルは明朗な声を上げた。  海中王宮の内側、議会席上部に突き出たバルコニーからの意思表明。  民の人気者であるタガルの発言に議会は波打ってどよめく。  そうだそうだ。星と共に我らも朽ちようぞ、などと過激派の声。  いやいや、道があるのならば検討すべきという理性派の声。  死までのタイムリミットが迫っている。  けれど民の総意は見事に二つに分かれていた。 「だって、いくら道があるとは言っても酷な道だわ。それよりもあたしは愛するこの海で最期まで生きる」      
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