【3】

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【3】

「光がない冷たい海なんて、絶望しかないわ」  タガルはもみくちゃになっている父王を尻目に、王宮の外の泡立つ波の奥に飛び込んだ。  波間に揺れるハヴィオンの陽光が、一面天使の梯子のようにキラキラと輝いている。  どうせならこの梯子を上って天国へ行けたらいいのに。 『クウ――――――――ン……………』  巨大な影が海底の方からせり上がり、タガルはそこでその声の主、ラートンを出迎えた。ラートンはタガルに近づくと、嬉しそうに肌を摺り寄せる。 「あぁ、お前も心配してるのね。でも大丈夫よ。あたしはどこにもいかないわ」 「……やあ、あなたが噂のおてんば姫ですか」 「えっ?」  ラートンに話していたつもりが、全く予想外の声が届きタガルは身を竦めた。  二十メートルのラートンの巨体の陰に、見知らぬ目隠し姿の若い男。  一目見てタガルは、噂のホザイアの使者ベクネであることを見抜いた。 「何?あたしに何の用?……って、え?おてんば姫とか言った?今」  ベクネの姿は遠目に見たが、きちんと対面するのは今が初めてのはずだ。  なのになぜ、タガルの情報を持っているのか。  分かりやすくプウッと頬を膨らませて威嚇するタガルに、ベクネは堪えきれずに笑い出す。 「何?ちょっと失礼じゃない?」  
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