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返された答案は赤点だった。
「やべー」
軽く頭を掻きつつひとりごとを言う。そこだけ髪がクシャッとなったので、手ぐしで整えながらふと窓際を見ると、黒髪ローポニーがしっとりとたたずんでいた。
あたしは自分の髪をひとふさ掴んで見てみる。パッサパサの茶髪。おい、あたしの髪よ、他人の色に染められるのがそんなに嫌か。だからって傷むことないだろ、花のJKだぞ。
もう一度、窓辺の真宮さんを見る。その手で大切そうに受け取った答案は、きっとマルでいっぱいなのだ。
透明に磨かれた厚めのレンズ越しに、誠実なまなざしを落としていた真宮さんは、やがてそっと答案を両手で包み、クリアファイルに丁寧に仕舞い込んだ。
──住んでる世界が違う。
真宮さんを眺めていると、いつもそう思う。
医学部志望から推薦でラクして短大へ上がる子まで、ピンキリの私立お嬢様学校の中で、ダントツのヤンキーであるあたしと生徒会書記の真宮さん。
頼りにしてる。わからないことがあればたまに彼女に訊いている。優しいから、すごく控えめでゆっくりとした口調で教えてくれる。
ひとりでいることが多い、というだけで、あたしは彼女に密かな親しみを覚えていた。
それと同時に、彼女のバックに輝くような女神さまが見えていた。
「じゅりあ〜、テストどうだったよ」
斜め後ろの席のダチが、肩に手を置いてくる。重たいけど軽い手だ。こっちがあたしの居場所。
名残惜しくて最後に一度、ちらっと彼女を振り返る。
あの真宮さんが、テストの結果を見たときだけ、ふっと吐息をこぼれさせること。
瞳の奥に安堵の色を広げること。
あたし以外に、誰が知っているんだろう。
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